高橋一生の本棚にはなぜトンデモオカルト本があるのか?
高橋がどんな思いでこの本を買ったのかはわからないが、般若心経に書かれている仏教哲学について学びたかったり、仏教の歴史や文化について学びたかったとしても、『万世一系の原理と般若心経』ではなんの参考にもならなかっただろう。
もう一冊の田中治吾平『鎮魂法の実修』も負けず劣らずのトンデモ本である。『鎮魂法の実修』は神道の修行に関して記した本だが、この本によると、修行を重ねて心が清められ、その人の霊が神の霊との隔たりがなくなる境地にまで達すると、未来に関する予言が得られるという。
〈霊感神示には、その人の現在未決定のことがらを指示決断されることもあるが、遠い将来の問題について指示されることもあり、広く社会に関することを予示されることもある。では遠い将来の予示予言がどうして可能であるかというに、形の世界は神の御心の次第に有形化したものであり、すでに神意と神理で決しておることの現われである。遠い将来のことでも、神意がやがて事実となって現れるのだから、ここに将来の感悟予知が可能なわけであり、修行が進み神意に達すればその神示が受けられるのである〉
つまり、この世界のすべては神の心の具現化されたものであり、修行によって神の心に近づくことができた人間は神の心を知ることができるので、現実世界の未来を予知することができると、この本は主張しているわけである。
ちなみに、『万世一系の原理と般若心経』も『鎮魂法の実修』も、1960年代、70年代に出版された本で、どちらも絶版になっている。しかも、出版元の霞ヶ関書房という会社は、幽体離脱した著者・竹内満朋が守護霊の案内で霊界を旅したときの体験を記した『魂の幽霊界行脚 死後の世界の体験記』といった本を出版していた、オカルト系に強いマイナーな出版社だ。
いったい高橋はなぜこのようなマニアックなトンデモ本を持っているのだろうか。高橋が興味を持っている密教が神秘主義、オカルトと親和性が高いことを考え合わせるとは、やはりそういうオカルト志向があるのだろうか。
もちろん、俳優が多少のオカルト趣味をもっていたところで、いちいちめくじらをたてる必要はないし、それ以前に、マニアックな趣味の高橋がたんに古本屋で買っただけ、あるいは批判的な意味で読んでみただけという可能性もある。いずれにしても、たかが2冊のオカルト本を発見しただけで、これ以上、高橋の趣味を詮索するのはやめておこう。
ただ、高橋がもし本気で仏教に興味を持っているなら、ぜひ、『スッタニパータ』を一読することをお勧めしたい。『スッタニパータ』は仏教書のなかで最も古い聖典とされるもので、『ブッダのことば―スッタニパータ』(岩波文庫)など、現代語訳も出版されている。そして、その360と927には、ブッタが占いや呪術を完全否定する言葉が記されている。
(本田コッペ)
最終更新:2017.09.17 07:50