安倍首相のブレーン八木秀次は「神武天皇のY染色体を継承できるのは男系男子だけ」のトンデモ主張
では、彼らが「男系継承」にこだわる理由はなんなのか。それは、男系皇統の維持こそが戦前日本の侵略戦争の支柱となった国体思想を支えるものだからだ。前述の小泉政権下での女性宮家創設議論の当時、八木氏は「諸君!」(文藝春秋)06年1月号での所功氏、長谷川三千子埼玉大学教授との鼎談でこのように語っている。
〈これ(男系継承)に手を加えるということは、国柄の崩壊、ひいては天皇制度そのものの否定に直結する。有識者会議メンバーの方々は、あの大東亜戦争で敗れても護持された国体に、マッカーサーでさえできなかったような空恐ろしいことをしようとしているのだという認識があるのかどうか、はなはだ疑問ですね。〉
また、この間の生前退位をめぐる発言のなかでも、八木氏は「男系の血」の尊さを繰り返し述べている。
〈天皇にはそのお役割の重要性とともに、その大前提として、神話に由来し、初代の神武天皇以来一貫して男系の血だけで継承されてきた血統原理に基づくゆえの、他に代わる者がいないというご存在自体の尊さがある。さらにいえば、陛下には天皇の位にいらっしゃること自体に十分意義があり、在位なさることで既にお役割を十分に果たしているとも言える。〉(「正論」16年10月/産経新聞社)
〈天皇は能力によって地位にあるのではなく、血統原理の男系継承によって他に代わる者がいないからその地位にある。天皇陛下はご自身で象徴天皇を厳しく規定されているが、それは今の代における特色であり、本来、天皇はどうあるべきかという本質ではない。〉(「正論」17年1月号)
天皇個人の人格を完全に否定し、その「男系の血」だけが尊いのであると言い張るグロテスクさには反吐がでる。しかも八木氏に言わせれば、「神武天皇のY染色体を継承できるのは男系男子だけ」らしいが、言わずもがな実際に男性のY染色体を辿って行き着くのは“神話”ではなく類人猿だ。完全にカルトとしか言いようがない。
だが現実問題、女性宮家ひいては女系天皇を認めなければ、皇位の継承は先細りの一方だ。そこで安倍首相ら“男系カルト族”が周知のごとく提唱しているのが、天皇家と親戚関係にある旧宮家の「男系男子」を皇籍に復帰させる、ないしは女性皇族の婿にするという“珍案”である。
たとえば「明治天皇の玄孫」を看板とする竹田恒泰氏は、〈女性皇族が女性宮家を創設する条件として、婿を旧皇族の男系男子に限定する〉〈民間男性を婿に迎える覚悟があるなら、旧皇族から婿をとるほうがよほど安心できるに違いない。まして外国のスパイである可能性はない。〉(「Voice」12年2月号/PHP研究所)などと主張している。また、数年前にはこんなツイートをして物議を醸したこともある。
〈詳細は言えませんが、昨日旧皇族の一族(一部)が集まって皇統の問題を協議しました。勿論自ら皇籍復帰を希望する者はいませんが、いざとなったら男系を守る為に一族から復帰者を用意する必要があると意見が一致しました。法整備ができれば何とかなりそうです。〉
自分が天皇になることはできないが、自分の子や孫、近親者を皇室に送り込みたい。そんな個人的野心がうかがえる。「皇族になりたいマン」などと揶揄されるのもいたしかたがないが、一応、突っ込んでおくと、旧宮家と現在の天皇家の共通の祖先は約600年前の室町時代まで遡らねばならず、また、旧宮家が皇籍離脱してから早70年が経過している。その子孫らは一般家庭で育っており、宮中の生活とは無縁だ。いったい誰がそんな夢想を受け入れるというのか。論外だろう。