坂野監督の戦争批判「ゴジラ映画でも自衛隊のドンパチは描きたくない」
また、『ゴジラ対ヘドラ』という映画に込められたメッセージは環境問題に関するものだけではない。
作中では、ゴジラが勇敢にヘドラと戦う一方、自衛隊は完全な木偶の坊として描かれている。ヘドラは水分がなくなると死んでしまうことを発見した科学者の提言により自衛隊は巨大な電極板を用意するが、肝心の場面でヒューズが飛んだりと、まるでコントの登場人物のように右往左往する。その描き方の背景には、1931年生まれの坂野監督が抱くこんな思いが反映されていた。昨年出版されたムック本「特撮秘宝 vol.4」(洋泉社)のインタビューに監督はこのように答えている。
「それは意図的です。僕は自衛隊はいらないと思っていますのでね。日本が戦争に負けたとき、それまでアメリカやイギリスは「鬼だ、獣だ」と信じ込まされてたのが、みんな嘘だったと知って、「年上の人が言うことは全部嘘だ」と思いました。戦争反対の立場ですから、いくらゴジラ映画でも、自衛隊が派手にドンパチやって活躍する場面は描きたくないし、頼もしくない自衛隊になっているんです」
環境や社会問題に対する坂野監督の思いはこの後も続いていく。坂野監督がエグゼクティブプロデューサーとしてクレジットされている、2014年公開のハリウッドリメイク版『GODZILLA ゴジラ』は、核兵器に対する批判的な風刺が直接的に盛り込まれた作品だったわけだが、その裏側ではこんなやり取りがあったようだ。
「彼らが作ったシナリオにはちゃんと環境問題のテーマが描かれていた。そこで私が持っていたゴジラの映像化権を譲り、彼らはさらに東宝と劇場用映画の製作契約を結んで、今回の作品が実現した」(「週刊文春」14年7月3日号/文藝春秋)
「ハリウッド版にゴジラの世界観を壊さないような条件を提示し、最新作では『なぜゴジラが生まれたのか』という原点に立ち戻っています」(「週刊朝日」14年6月27日号/朝日新聞出版)