行政は次々と規制を加え、エロ自販機は衰退した
エロ自販機最大の問題は、普通の本屋などとは違って対面販売ではないため、未成年でも商品を買えてしまう可能性があるという点である。そこでエロ自販機業界は、運転免許証をスキャナーに通して未成年でないことを証明しなければ購入できないようにする年齢識別装置を導入した。これによって、愛知県や大分県や宮崎県などは年齢識別装置を取り付けることを条件にエロ自販機の設置を認めたのだが、個人情報を晒すことに抵抗感を示す顧客が続出し、売り上げは減少。また、抜き打ちの実態調査の結果、肝心の年齢識別装置が正常に作動していないケースがあることが発覚し、愛知県はその後、有害図書の自販機設置を全面的に禁止する流れに方針転換した。
そこで次に生まれたのが、自販機小屋に監視カメラを設置し、セキュリティー業者が24時間監視、客が成人であると確認できた場合のみ購入可能な状態にするというシステムだった。これならほぼ対面販売と同じことであり、未成年に販売してしまうことはなくなりそうだ。しかし、その自主規制策も認められないケースが生じ、神奈川県や福島県では遠隔管理システムを備えた自販機小屋を運営する会社が摘発されている。
また、パネルやトタンで囲んである小屋に風営法を適用するケースも生まれた。自販機小屋を「アダルトショップ」と解釈することで、風営法違反(禁止地域営業)により逮捕する事例も発生したのである。
こうした規制の結果、エロ自販機はだんだんと衰退していき、00年代も後半に差し掛かってくるころにはエロ自販機から撤退する業者が相次ぐ。日本中に林立したエロ自販機は次々と廃墟になっていった。いまでは北海道、千葉県、和歌山県、京都府、滋賀県、兵庫県、島根県、鳥取県、香川県、徳島県、愛媛県、高知県、沖縄県では一台もエロ自販機が存在しないという。このような規制の流れについて、本書でインタビューに応える自販機会社の社長はこのように述べている。
「行政は業者を規制するために自動販売機の定義を条例で細かく定めています。彼らがそうした規制をかけるそもそもの理由は“アダルト商品を子どもに売らないため”だったはずなんです。ところがおかしいのは規制が強化されていく過程で“自動販売機はケシカラン”という自動販売機の存在そのものが「悪」だという話にすり替わってしまっていったことなんです」
エロ自販機の衰退は行政からの度重なる規制だけが原因なのではなく、インターネットの普及により、アダルトメディアの主流が本やDVDなどからネットに移行したというのも大きい。それは成人誌をめぐる状況にも言えることで、たとえ、現在問題になっているような規制があろうとなかろうと、成人誌がコンビニから姿を消すのは時間の問題なのかもしれない。