そもそも安倍政権は、共謀罪が必要な理由として「五輪開催にあたってのテロ対策」と言うが、髙山教授は「そういう内容になっていない」と指摘。単独犯によるテロ計画や単発的なテロが法案から除外されているためテロ対策とは言い難い上、改定された「テロ資金提供処罰法」や、最高裁判決では詐欺罪や建造物侵入罪の適用が広くなっていることを挙げ、「テロの対策としては、諸外国と比べても日本はかなり広い処罰範囲をすでに有している」と述べた。
また、同様に安倍政権は「五輪開催にあたって国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を早く締結しなければならない」と説明するが、これについても髙山教授は「国連による立法ガイドでは組織犯罪対策として国内法の基本原則に適合するように対処することを求めており、憲法の範囲で対処してくださいと言っている」と説明。「TOC条約を締結する方法はいろいろある」「先に条約を締結してしまってから国内法の内容を慎重に考えるということもありうる」とし、共謀罪を成立させなくても日本はすでにTOC条約を締結できる状態にあることを指摘した。
さらに、髙山教授は「対象犯罪が選別されているやり方が理解できない」と言い、こんな疑義を呈した。
「公権力を私物化するような行為が含まれるべきであると思われるんですが、それが除かれている。公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反はすべて除外されています。警察などによる特別公務員職権濫用罪、暴行陵額罪は重い犯罪ですけれども除外されています」
公権力の私物化行為は対象外──。一般市民をいくらでも捜査対象にできる一方で、自分たちがしょっちゅう繰り返している犯罪は対象にしていない。こんな卑怯な話が果たしてあるだろうか。
しかも、金田法相は、ただの花見なのか犯罪の下見なのかをいかに判断するのかと問われ、「目的をしっかり調べる」と答弁したが、これについても髙山教授はこのように意見を述べた。
「ある人がある場所に赴く。その目的が花見のときは処罰対象にならないが、犯罪行為の下見のときは処罰対象に入ってくる。これはまさに外見上はまったく違いはなく、違いは内心そのものです。そして片方は処罰され、片方が処罰されないということは、その内心の違いだけを根拠として処罰されているのと同じことになります」
また、つづけて髙山教授は、「我が国の憲法では、そのような考え方は基本的に認められていません」と批判。「内心の自由や思想・良心の自由、表現の自由などを含む精神的自由というのは、経済的自由と比べても一段上の価値を有する。それを刑事罰でもって制限しようというからには相当の理由がないといけない」「(刑事罰として)認められる基準について、最高裁は『保護される利益に対する危険がたんに観念的なものに留まらず現実的なものとして、実質的に認められる場合でなければ処罰してはならない。これに反する処罰は憲法違反である』という考え方を示している」とし、共謀罪について「憲法上の疑義がある」と述べたのだ。