こういった例は枚挙に暇がない。AVに出演していた過去(といっても、本人はAVではなくバラエティ番組のようなものだと認識させられており、内容もただ飴を舐めているだけなのだが)が明るみになり出演番組をすべて降板、勤めていたテレビ愛知からも去ることを余儀なくされたアナウンサー・松本圭世氏の騒動、過去のAV出演歴が発覚して人目につかない管理部門の部署へ配属になった小学館の新卒女性社員のケースなど、現在でもまだまだAVに携わった人々をまるで犯罪者のように扱う偏見はなくなってはいない。
そんななかでも、特に矢面に立たされたのが、日本経済新聞の元記者で、現在は社会学者として文筆活動をしている鈴木涼美氏だろう。彼女はAV女優として70本以上の作品に出演していた過去を「週刊文春」(文藝春秋)に書き立てられ、大きな波紋を呼んだ。
鈴木氏が日本経済新聞社を退社したのは、「文筆業との両立に時間的/立場的にやや無理が生じたため」であり、会社側からの懲戒処分ではないとしているが、それでもAV出演の過去が発覚したときは、かなりきつい言葉を浴びせられたと雑誌のインタビューで答えている。
「私も週刊誌に過去を暴露されたときは親に迷惑をかけたり、元勤務先からも『日経のブランドに傷をつけた』など、やっぱりいろいろ言われました」(「SPA!」16年3月8日号)
昨年10月に当サイトが行ったインタビューでは、AV出演者の人権を守るための団体「表現者ネットワーク(AVAN)」代表で、元AV女優・官能小説家・怪奇作家の肩書きをもつ川奈まり子氏が、自らの体験談も交えつつ、AV女優が社会のなかで受ける偏見や差別についてこのように訴えていた。
「AV女優たちの一番の悩みはヘイトクライムです。住んでいるアパートを追い出されるとか、仕事をクビになるとか、職場でイジメに遭うとか。会社でAV女優だった過去がバレてレイプされそうになったという相談すら受けたことがあります。
私もライターとして連載させてもらっている媒体から『川奈さんがAVに出ているなんて知りませんでした。今後の取引は中止させていただきます』と言われたり、編集部は大丈夫でもスポンサーからNGが入って仕事がなくなったりと職業差別を受けてきました」
このような偏見がまかり通っている状況についても、もっと注目されてしかるべきなのではないだろうか? AV女優として活動するのみならず、最近では小説家としても注目を集める紗倉まなは『MANA』(サイゾー)のなかで、AV女優としての自分の仕事の意義についてこのように綴っていた。
〈「AV出演=人生崩壊」というイメージを払拭できたら。偏見という厚い鉄製の壁を壊す作業を、今はアイスピックくらいの小さい工具でほじくっているような気持ちです。ちょこちょこといじるのが私の楽しみであり、仕事のやりがいでもあります。「もしかしたら、何かの拍子にツンとつついたら壊れるかもしれない」と希望を抱けるのも、ある意味で“グレーな領域の仕事”だからこその醍醐味なのかもしれません〉
出演強要に関わる問題を端緒に、現在AV業界に関して多くの議論が交わされているが、こういったAV女優たちが引退した後のセカンドキャリア問題についても前向きな意見の交換がなされればと思うばかりである。
(田中 教)
最終更新:2017.11.21 07:41