「五輪関連事業が増えて入札不調が深刻化しているという話を聞いたのですが、そういう被災地の悲鳴は届いていますか。公共事業削減に取り組むお考えはありますか」
しかし、小池都知事は「さまざまなご意見として受け止めさせていただきます」とそっけない回答をしただけだった。
福島・宮城・岩手の被災三県の現実は、未だに仮設住宅暮らしの被災者が少なくないなど、ランドセル贈呈だけで希望が湧くほど甘いものではなかった。岩沼市に続いて訪れた石巻市の日和山公園で小池都知事は、高台から復興状況を確認したが、港周辺の旧市街地跡は更地が多く、防潮堤も途切れ途切れになっていた。
東日本大震災から6年が経とうとしているのに、新しいランドセルに喜んだ小学1年生が卒業目前になった今もなお、復興は道半ばの状況に止まっているのだ。「復興途上なのになぜ五輪なのか」「五輪関連事業で資材・人手の奪い合いになり、被災地復興のマイナス」といった声が被災者から出るのは当然なのだ。
被災地では巨大防潮堤などの大型復興事業が集中、人手・資材不足による工事費高騰や入札不調が深刻化、これに東京五輪関連事業や安倍政権の全国的な公共事業バラマキ(アベノミクスの柱の一つ)が拍車をかけている。“アベ土建政治”が震災復興を遅らせる要因の一つになっているともいえるのだ。
「(震災復興は)オールジャパンで取り組む課題だと思っています」と囲み取材で語った小池都知事だが、東京都として五輪関連事業などの公共事業削減に取り組むと同時に、安倍首相にも「全国的な公共事業抑制(被災地復興事業への集中)」を働きかけることをしようとしないのだ。
数字も被災地の苦境を物語っている。宮城県庁の担当者が差し示した「公共工事設計労務単価変動グラフ」を見ると、建設業界の人件費が1.5倍から2倍程度に上昇。2011年は普通作業員の労務単価が1万1100円だったが、5年後の2016年には1万7500円と1.5倍以上に増加。特に人手不足の型わく工は1万6700円から3万円と2倍近くに跳ね上がっていた。
入札不調も震災前の平成22年度は3.2%であったが、震災直後の平成23年度は22.6%に急増。平成26年度が21.1%、平成27年度も19.4%と解決にはほど遠い。東京五輪関連事業や熊本復興事業など他地域での公共事業が増えて、全国的に公共事業過多の需給関係が続いていることが原因であることは明らかだ。
入札不調や工事費高騰は、民間の建築事業にも悪影響を及ぼす。防潮堤見直しのパイオニア的存在の「赤浜地区の復興を考える会」の川口博美会長(岩手県大槌町)は、こう話す。