『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)
『夫のちんぽが入らない』──。
レジに持っていくのに思わず躊躇してしまう、こんな衝撃的なタイトルの本がいま大変な話題を集めている。この本は発売前から大きな注目を集め、今月18日の発売日からわずか1日で重版が決定。早くも累計6万部を超えるヒットとなっているという。
『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)は、著者のこだま氏が「文学フリマ」で発売した同人誌「なし水」に寄稿した同タイトルの短編が元になった自伝的私小説。何ともネタ感の強い表題ではあるが、その物語はおふざけなどではなく、性、出産、親子関係、仕事などに悩み苦しんだ一組の夫婦による切実な戦いの記録である。
こだま氏が夫と出会ったのは18歳のとき。大学進学に際して入居したアパートの2つ隣の部屋に住んでいたのが縁だった。2人はほどなくして付き合うことになるのだが、ここである問題が起こる。
〈私と彼は、セックスをすることができなかった。
ちんぽが入らなかった。
(中略)
最初何をふざけているのだろうと不思議に思った。
でん、ででん、でん。
まるで陰部を拳で叩いているような振動が続いた。なぜだか激しく叩かれている。じんじんと痛い。このままでは腫れてしまう。今そのふざけは必要だろうか。彼は道場破りのように、ひたすら門を強く叩いている。
やがて彼は動きを止めて言った。
「おかしいな、まったく入っていかない」
「まったく? どういうことですか」
「行き止まりになってる」
耳を疑った。行き止まり。そんな馬鹿なことがあるだろうか〉
彼はこだま氏のことを処女だと思い込み、その夜は無理をせずに寝ることになった。しかし、彼女は処女ではなかった。高校2年のときに初めてした相手とは、痛みと出血はあったものの問題なく事を行うことができたのだ。だから、日を改めてまた夜が来ても結局うまくいくことはなかった。