『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』(遠藤功/角川書店)
卒業後2~3年で年収2000万円、将来は世界のトップ500の企業の最高経営責任者(CEO)になれるかもしれない──。ビジネスエリートの成功への夢のパスポートがMBAと言われている。
Master of Business Administration(経営学修士)の略であるMBAは米・ハーバード大学で生まれ、企業経営幹部兼研究者の教授陣から、最新のビジネスの現場のケーススタディを学べるとあって、米国ではビジネスで成功するためには必須とされている。
学費も高額。最も高額とされるシリコンバレーのスタンフォード大学は日本円換算で1300万円だ。欧州、中国、東南アジアなどでもビジネススクールが次々に設立され、ビジネススクール間でも熾烈な競争となっている。米国だけで毎年10万人のMBAホルダーが送り出されている。
日本も例外ではない。1962年に創立された慶應義塾大学大学院、神戸大学大学院、一橋大学大学院、早稲田大学大学院(WBS)と続き、2003年度に文部科学省が「専門職大学院制度」を創設し、専門職大学院ブームとなり、爆発的に急増。大学数で80、毎年、日本だけでも約5000人のMBAホルダーが輩出されているのだ。日本の私立大学のビジネススクールの学費は200~400万円と本家のMBAに比べればはるかに安い。
ところが、日本のMBAホルダーには悪夢のような現実が待っている。「MBAを取得しても給与は上がらず、逆に職探しさえ苦労する。期待と希望は、落胆と失望へと変わる。それが日本のMBA」と厳しい現実を語るのは2005年に早稲田大学ビジネススクールの教授に就任以来、名物教授として知られてきた遠藤功氏だ。
2016年3月、定年退職年齢の70歳まで10年以上ありながら「結論を言えば、ビジネススクールという『不完全な装置』では、優れた経営者やビジネスリーダーを育てるのはできない」「MBAという『金メッキの勲章』には何の価値もない」と退任し、『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』(角川書店)を執筆したのだ。
遠藤氏は、「経営においては『経験』こそが最大の学び」と説き、「経験を積むことのできる『実践の場』を学生に提供できない」日本のMBAは「なんちゃってMBA」だという。
「多くの学生は、仕事のかたわらビジネススクールに在籍し、実ビジネスから隔離された教室に閉じこもり、捻出した限られた時間のなかで与えられた教科書を読み、現実感の乏しいケーススタディをこなし、卒業に必要な最低単位を取得し、MBAを手に入れる。たったそれだけの努力で『自分は“経営のプロ”になった』と勘違いする輩も多い」