MBAホルダーは、分析がしやすい、データがふんだんにある古い産業(日用消費財産業)への就職を好み、データのない新興企業、ハイテク企業の起業には二の足を踏む。「社会に出て雇用を創出し、GDPの増加に貢献する起業家を輩出することはビジネススクールに期待されているとすれば、その点でビジネススクールが成功しているとは言えない」という研究者の声をミンツバーグは紹介する。
それでも、アメリカでも実際に成功をするMBAホルダーは一握りはいる。その成功者を前面に押し出してブランド化を図っているのが本場・アメリカのMBAなのだ。
遠藤氏もこう指摘する。「『分析屋』ばかりを生み出すという弊害は、日本のビジネススクールだけの問題ではない」「たしかに海外のトップスクールは独自のビジネスモデルを築き上げ、『商売』としては大成功を収めている。定員にも満たないビジネススクールが山ほどある日本と比べれば、『商売』の上手さという面では秀でている。しかし、『商売』として成功しているからといって、そこから生み出される『商品』の質が高いとは限らない」。
さらに、遠藤氏は日本のMBAは多くのビジネススクールが定員割れ、全入状態で、自らのブランド構築さえもできていないと指摘する。南山大学大学院ビジネス研究科ビジネス専攻は2017年度の新規募集を停止しているほどだ。
これから乱立する日本のMBAの競争が加速し、募集停止も囁かれそうだ。同書では早稲田大に乱立したMBAの統合の経緯も紹介されている。なにしろ、2000年代には、アジア太平洋研究科国際経営専攻、商学研究科プロフェッショナルコース、商学研究科ファイナンスコースとMBAだけでも3つ、さらにビジネススクールは5つもあったのだ(創造理工学研究科経営デザイン専攻、会計研究科)。
「なぜ一つの大学に複数のビジネススクールが乱立するようなことが起きてしまうのか。その根本原因は、そもそも大学全体としてどのようなビジネススクールをめざすのかという全体構想がなく、さらには組織統治が弱いので、個々のプログラムを立ち上げようとする別々の動きを調整したり、連携させることができていないからである」
統合に動き出したのは「学生が集まらない」という現実のためだ。
「理想論だけではビジネススクールの経営はできない。結果として、国際経営専攻はプロフェッショナルコースと統合し、パートタイムMBAに大きく舵を切る選択をした。この方向転換によって、ビジネス専攻は経営的には安定した。(略)高邁な理念を掲げて別個に誕生した三つのMBAは結局、学生集めというきわめて現実的な理由で一つになったのである」