「株式会社カラー」公式サイトより
今月2日、『シン・ゴジラ』や『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる庵野秀明監督が経営するアニメ制作会社・カラーが、借入金1億円の返済を求め、庵野氏の古巣であるガイナックスを提訴したと報じられた。ガイナックスは庵野氏の作品で得た収入の一部をロイヤリティーとして支払う契約だったが、それが遅延していたうえ、それとはまた別にカラーからガイナックスに貸していた1億円の返済も滞っていたという。
『エヴァンゲリオン』だけでなく、古くは『トップをねらえ!』など日本のアニメ史に残る作品を多く手がけたアニメ制作会社が火の車になっていたことに驚いてしまうが、こういったアニメ業界の苦境はガイナックスだけの問題ではない。そして、制作会社が厳しい状況に立たされたとき、その影響をもっとも厳しいかたちで受けるのは、現場の末端で働くアニメーターたちである。
庵野氏はこの訴訟が報道される直前、「週刊新潮」(新潮社)2016年11月24日号のロングインタビューに登場。アニメ・特撮監督としての自身のキャリアを振り返っているのだが、そのなかで現在の特撮やアニメ、とりわけアニメ業界が抱える問題について言及している。
そもそも庵野氏は、06年にガイナックスを退社。カラーを設立し、この会社で映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどの制作を行っている。彼がカラーをつくった当初から、長時間労働かつ薄給であったり、保険すらきちんとしていなかったりというアニメ業界の労働問題に取り組んでいることはよく知られている。そして、前述の「週刊新潮」でも、こう語ったのだ。
〈設立当初から、カラーではスタッフになるべく利益を還元したいと考えています。儲かったときは利益を還元し、儲からなかったらみな貧乏になるわけですが、なるべくリクープする確率を上げたいと思っています。しかし、現状のビジネスモデルでは、アニメーションの制作現場はなかなか儲かりません。近年は制作印税のような仕組みもあるとはいえ、現場を受け持つ下請けスタジオにまでお金が回るのは難しいんです〉
アニメ制作現場の末端で働くアニメーターたちのブラック労働問題がメディアで指摘されるようになって久しいが、その状況を変える手立てすらいまだ見つからないでいる。庵野氏は昨年にも「アニメ制作のシステムについて、あと5年くらいで寿命がくる」と発言し大きな話題となったが、現状はそれほどまでに深刻なのだろう。