無言でそのCGを見つめる宮崎監督に対し、川上氏はこのように説明する。
「これは早く移動するって学習させたやつなんですね。これは頭をつかって移動させてるんですけど。基本、あの痛覚とかないし、頭が大事という概念がないんで、頭をもう足のように使って移動しているっていう。この動きがとにかく気持ち悪いんで、ゾンビゲームの動きに使えるんじゃないかっていう。こういう人工知能を使うと、たぶん人間が想像できない気持ち悪い動きができるんじゃないか」
そして、川上氏が「いちおう、こんなことをやってます」とプレゼンを終えると、しばしの沈黙のあと、宮崎監督が口を開いた
「毎朝会う、このごろ会わないけど、身体障害の友人がいるんですよ」
決して怒鳴りあげるようなものではなかったが、内側であきらかに怒りを抑えているということがカメラ越しでも伝わる言い方だった。
「ハイタッチするだけでも大変なんです。彼の筋肉がこわばっている手と僕の手で、こう、ハイタッチするの。その彼のことを思い出してね。僕はこれ、面白いと思って見ることできないですよ」
そして、川上氏とその部下のCG技術者たちに向かって、こう告げたのだ。
「これを作る人たちは痛みとかそういうものについてね、何も考えないでやってるでしょう。極めて不愉快ですよね。そんなに気持ちの悪いものをやりたいんなら勝手にやってればいいだけで、僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません」
「極めてなにか、生命に対する侮辱を感じます」
宮崎監督の真剣さに、押し黙る川上氏。カットが切り替わると、「あの、でもこれってほとんど実験なので」「世の中に見せてどうこうとそういうものじゃないんです」ととんちんかんな言い訳を始めるが、宮崎監督は実験かどうかの問題ではないというように、「それは本当によくわかっているつもりですけど」と突き放した。
当然だろう。ジブリといえば、戦争と差別を憎み、平和を希求する精神をもった制作集団。そしてなにより、宮崎作品や盟友の高畑勲監督の映画のテーマには、人間そして生命の尊厳が常にある。