それに対して、川上氏は得意気にプレゼンしたそのCGを「この動きがとにかく気持ち悪い」などと説明、あきらかに見せ物として嘲笑うものだった。そこには、人間や生命に対する敬意のまなざしが欠片もない。自分とちがう動き方・体の使い方をする人間を「気持ち悪いもの」としてバカにする行為は、差別そのものだ。宮崎監督が「身体障害の友人を思い出して、面白いと思って見ることできない」と言ったのも、そういうことだろう。人間の「痛み」をまったく想像せずに「気持ち悪い」といって嗤う。その川上氏らの非人間的な感覚を、宮崎監督は「生命に対する侮辱」と批判したのだ。
だが、本サイトでは以前から指摘してきたが、そもそもジブリと川上氏の思想は、根本的に相容れないものだ。たとえば、差別をめぐる考え方ひとつとっても、そうだろう。川上氏が創設した動画共有サイト「ニコニコ動画」には、韓国人や中国人に対するヘイトをばらまくような動画が多数投稿されており、川上氏もそれを容認してきた。しかも、2014年末にはヘイト市民団体「在特会」の公式チャンネルまで設立した。
さすがに「ニコ動はヘイトスピーチに加担するのか」と批判を浴び、翌年の5月には事前のアナウンスなしに突然閉鎖させたが、それでも川上氏はツイッターで〈日本社会のあるタブーへの議論のきっかけとしての社会的役割を果たした事実は認めるべき〉などと在特会を賞賛。当時、ドワンゴはカドカワと経営統合して一年足らずであり、本サイトは、社会的影響力のあるメディアがこうして差別思想を拡散していることを批判する記事を続けて配信。そして、川上氏の直接の師匠である鈴木プロデューサーに、川上氏の言動や「ニコ動」の差別助長の動きについて見解を聞くため、都内某所の路上で直撃したことがある。
そのとき、鈴木プロデューサーは本サイト記者の直撃に対し、「詳しいことはわからないのでコメントはできない」としつつも、差別的な言説は表現の自由の範疇か、「朝鮮人を殺せ!」という言葉はどうなのかと訊くと、人目もはばからず、「俺は、大っ嫌いです」と明言。差別扇動言説に対する批判を、個人的にではあるがはっきりと示した。
それは、宮崎、高畑両監督も同じだろう。これまで憲法9条の堅持を訴え、安倍政権の戦争政策にも痛烈な言葉で批判してきた両監督だが、それはやはり、戦争や差別が人間や生命の尊厳を踏みにじる圧倒的な悪であるという強い意識があるからに他なるまい。だからこそ、今回の『Nスペ』のなかで宮崎監督は、カメラが回っているところで、川上氏らのプレゼンを徹底批判したのだ。