この老人は孤児院育ちで身寄りがなく、勤めていた製靴会社が倒産したことで妻とも離婚、生活保護を受給しながら簡易宿泊所で生活しているという。決まりだから警察を呼ぶという伊東氏に、この老人はこう答えている。
「全然、かまわないよ。いま住んでいるところもブタ箱と変わらないから……」
また都内スーパーでヨーグルトやマンゴープリンなど乳製品ばかりを1200円ほど万引きした老女の動機ももの悲しい。
「難病を抱えた息子と二人で暮らしているものですから、生活が苦しくて……」
難病の息子を抱え、数年前に夫を亡くしたという老女。パートで生計をたてながら生活保護も受給しているというが、それでも生活は苦しい。しかも乳製品ばかり万引きしたのは息子の食事のためだという。
「身体が不自由な息子は、自分で噛むこともできないので、固形物が食べられないんです。お店には申し訳ないと思いつつも、息子の命を救うためだと思って、息子が食べられるモノだけを盗んでしまいました。私が警察に連れていかれたら、あの子は生きていけません。どうか警察だけは……」
老女は土下座して何度も謝り続けたという。
また刑務所に入るために万引きする俗称「志願兵」という老人も存在する。都内繁華街の大型スーパーで弁当など600円ほどを万引きした77歳の老人は万引きの動機を平然とこう語っている。
「一〇日ほど前に拘置所から出たばかりなんだけど、メシは食えないし、寝るところもないから戻りたいんだ」
老人はこれまでにも窃盗や傷害、強制わいせつなどで3回の懲役をつとめたが、頼れる身内もなく、住む家も金もない。更生施設の暮らしもよほど嫌なことがあり脱走したようだ。
「オレ、執行猶予中だから、逮捕してもらえるよな?」
老人は駆けつけた警察のパトカーにうれしそうに乗り込んでいったという。