〈たとえば、人気があったのが『笑点』だった。
あのおなじみのテーマ曲が流れると、タバコを吸わない人たちもテレビの前に集まった。ただし、笑い声はテレビの中だけ。番組を観て笑う人は誰もおらず、みな無言で眺めている。
一方、人気がなかったのが『アンパンマン』だった。
『アンパンマン』というと、正義の味方のアンパンマンが悪者のバイキンマンをやっつけるという、ほのぼのとしたアニメだ。だが、DVの被害を受けた入所者の目には、アンパンチでバイキンマンを殴る暴力アニメに見えた。殴ることでヒーローになる『アンパンマン』がはじまると、テレビのチャンネルを変えたり、その場を去ったりした。入所者は些細な暴力シーンにも敏感に反応した。子ども向けの番組でも同じだった。
不人気番組のワーストワンは、なんといってもワイドショーだった。
ワイドショーではしょっちゅう殺人事件を特集している。それを見ていると、「自分が殺されて、ワイドショーのネタになっていたかもしれない」と考えてしまい、気分が落ち込むのだ。
また、芸能人や有名人の婚約・結婚発表などもまともに観られなかった〉
シェルター内の年齢構成は幅広く、子どもを連れた20代のお母さんから、70代半ばのおばあさんまで。そして、外国人の女性も入所していたという。実は、高齢者や外国人といった人たちは特にシェルターを必要としている人たちである。
11年に「移住労働者と連帯する全国ネットワーク・女性プロジェクト」が調査した結果によれば、シェルターを利用した女性のうち、外国籍の女性は8.6%を占めていたという。また、警視庁の統計によると、15年に寄せられたDV被害の相談のうち、11%が60歳以上の被害者によるものであった。
シェルターを利用する人に共通するのは、暴力を振るう配偶者から逃れる手段をもっていないということだ。定職に就いていて自分自身で稼ぎがあったり、頼れる家族や友人のいる人は追い込まれる前に逃げ出すことが可能だ。しかし、配偶者に経済的に依存している人は、その後の生活のことを考えると思い切って逃げ出すことに躊躇してしまうため、問題を深刻化させてしまいやすい。外国人と高齢者はその最たる例であるといえる。
このようなDVシェルターは「命」を守る施設であり、今後もその重要性を増していくだろう。しかし、現状その数は圧倒的に足りないうえ、民間のDVシェルターも予算と人的リソースが不足しているという状況がある。政権は防衛予算を増やす前に、お金をかけるべきところがあるはずだ。
(井川健二)
最終更新:2017.11.24 07:04