■あらためて日本会議とは何か?
参院選で改憲勢力による3分の2の議席を獲得すれば、安倍首相は間違いなく任期中の改憲発議に打って出る。この危機感をどれだけの人が共有しているだろう。そして、その時が刻々と迫っている状況のなかで、私たちは日本会議の存在をどのように捉えればいいのだろうか。一方で「政権を裏であやつっている秘密組織」のような謀略集団的なイメージで語られ、一方では「単なる草の根保守運動にすぎない」という意見まである。率直に尋ねると、上杉はこう答えた。
「私は、ある種の“陰謀論”的な見方も、“普通のおじさんたち”という見方も、どちらも完全に当を得ているわけではないと思います。たしかに日本会議の動員力と地方まで張り巡らされたネットワーク力を見くびることは決してできません。その集団の構成員の大半は純朴な信者か一般市民であることも確かです。しかし、その中心には元生長の家グループという核がいます。ただ、彼らはせいぜい歴史的な立場での共通性を持っているにすぎません。だから『日本会議』と言った場合に、政治的な傾向は戦前回帰的なものに近いけれども、アベノミクスの是非を含む経済問題や、日米関係など国際問題はまた別の話です。また、現内閣の閣僚の約7割が日本会議の議連に属しているからといって、安倍政権の政策の70パーセントが日本会議に支えられているなんてこともあり得ません。たとえば、日本会議の議員連盟の会費は年間で、国会議員であっても1万円にすぎません。付き合いで入っている人も大勢います。そうしたなかで、日本会議がどのように思おうが、万力のような強い国際関係や経済問題について安倍政権にできることとできないことがあります。ですから、冷静な見方としては、日本会議はすべての分野で影響力を行使できるはずがない。一方で、安倍も選挙基盤として日本会議を切ることはできませんから、その意味で安倍晋三は、多重人格的に振舞わざるをえませんよね」
そう“日本会議の限界”を指摘したうえで、上杉は「本体を隠しながら課題別の実働団体を駆使する手法」を単眼的に見るのではなく、「右派運動の総合商社、あるいはデパート」として全体的に把握すべきだと繰り返し強調する。そして最後に「日本会議の弱点」について、こう示唆してくれた。
「彼らが『日本会議』という看板を表に出そうとしないのは、ものすごい“後ろめたさ”を抱えていることの証左でもあります。この“後ろめたさ”こそ、彼らの最大のウィークポイント。だから、メディアは彼らをどんどん陽のもとに当てたらいいのですよ。彼らの実態は宗教団体でありながら、目的外の活動をやっているんです。政教分離違反です」
18年前から日本会議とその周辺を追ってきた上杉聰。研究を始めたころは孤立感さえ感じたというが、第二次安倍改造内閣の発足以降、朝日、東京、神奈川新聞など新聞メディアもその動向を積極的に報じるように変わった。そして、ジャーナリストや在野の研究者たちが次々と各媒体で論考を精力的に発表するようになり、インターネットでは急速に日本会議の名前が取り上げられるようになった。
この“日本会議ブーム”を一過性に終わらせてはならない。ひとつの見方に固執するのではなく、日本会議と安倍政権がいよいよ改憲の目前まで迫ってきているという事実を強く意識しながら、今後も継続的に様々な視点から連中を追及していく必要がある。
(梶田陽介)
最終更新:2016.06.21 02:08