『テレビと原発報道の60年』(彩流社)
今年3月、稼働中だった高浜原発3号機と4号機への運転停止命令という画期的命令を出した大津地裁だが、6月17日に再び関西電力による執行停止の申立てを却下した。その理由について山本善彦裁判長は「決定を取り消す明らかな事情がない」「(関西電力が)安全性に欠ける点のないことの立証を尽くさなければ、欠ける点のあることが推認される」と指摘。福島第一原発事故の原因究明が完遂したと認められず、新規制基準に従って許可を受けても安全性は確保されないとした。
高浜原発の安全性は担保されず、再稼働すべきでないという画期的司法判断が下されたわけだが、しかしこれで安心してはいけない。
本サイトでも既報の通り、こうした司法判断が出るたびに政府は司法に介入し不都合な裁判官を左遷させ、一方で自分たちの言い分を聞くエリート裁判官を着任させるという強引な手段を講じてきた。また、関西電力も3月の運転差し止めの際、テレビ局などのメディアに対し「反原発派の一方的な言い分を流さないでほしい」という圧力をかけていたことも明らかになっている。
これまで莫大な広告料や様々な圧力・懐柔でメディアをコントロールしてきた電力会社だが、福島原発事故を受けてもその体質は何ら変わってはいないどころか、その攻勢をさらに強めてさえいえるのだ。
メディアは、政府や電力会社にどのように“骨抜き”にされ“統制”されたのか。──5月に発売された『テレビと原発報道の60年』(七沢潔/彩流社)では、現場から見たテレビと原発報道についての多くの問題点が指摘されている。
そもそも、著者の七沢氏は、1986年のチェルノブイリ事故以降、NHKディレクターとして数々の原発をテーマにした番組をつくってきた人物だ。番組は好評価を受け、賞も受賞したが、しかし、局内での評価はそれとは違ったものだった。
当時、NHKには電力会社の幹部が経営委員にいたこともあり、上司からは「原発番組ばかり作らないほうがいい」と忠告され、その後、七沢氏は関連会社に飛ばされてしまう。だが、そこでも七沢氏は原発関連番組をつくり続け、2003年に放送されたNHKスペシャル『東海村臨界事故への道』を制作、事故の安全審査をした科学技術庁にも重大な責任があったとこと指摘した。ところが、その際も編集段階で報道局科学文化部の記者から「放送すべきではない」とあからさまな攻撃を受け、同年に放送文化研究所に“さらに追放”されてしまう。