『セブン-イレブン 鈴木敏文帝国崩壊の深層』(金曜日)
コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブンの親会社・セブン&アイ・ホールディングスは5月26日、東京都内の本社で株主総会を開き、新社長に昇格する井阪隆一氏らを取締役に選任する人事案を承認した。また、井阪氏の後任のセブン-イレブンの社長には古屋一樹副社長が昇格する。米国発祥のコンビニエンスストアという業態を日本に導入し、日本を代表する小売りチェーンに育て上げ、24年間、その権力をほしいままにした会長兼最高経営責任者(CEO)の鈴木敏文氏は退任して名誉顧問に退くことになった。
加盟店オーナー家族を自殺に追い込むほどの“悪魔のフランチャイズ”ピンハネシステムでのボロ儲け、1656億円もの広告宣伝費(2015年)を大量投入し、「ブラック企業大賞2015」受賞の事実さえも報じさせないメディア支配……。鈴木氏の退任によってこうしたブラック体質は改善されるのだろうか。
しかし、それはありえないだろう。なぜなら、セブンのフランチャイズオーナーに対する恐怖支配は、鈴木氏個人のキャラクターだけではなく、別の組織から導入した人脈とシステムがベースになっており、それが今も強固に根付いているからだ。
その別の組織とはズバリ、自衛隊だ。セブンにおける自衛隊の影響力の大きさ、そしてブラック体質と恐怖支配の風土が形成される過程を解き明かしたのが、『セブン-イレブン 鈴木敏文帝国崩壊の深層』(金曜日)だ。
著者は、渡辺仁氏。セブン-イレブンが絶対的タブーになっているメディア状況下で、雑誌「週刊金曜日」を舞台に、たったひとりセブンのブラック商法を追及してきた経済ジャーナリトだが、鈴木敏文氏が退任に追い込まれる直前の今年2月、急死。同書はその遺稿を出版したものだ。
その渡辺氏は同書で、鈴木敏文氏と並んで、セブンのブラック体質をつくりだしたキーマンとしてある人物をあげている。それは、鈴木敏夫氏のあとを継いで、3代目社長を務めた栗田裕夫氏(1992~1997年)だ。
栗田氏は終戦時の1945年に陸軍士官学校を卒業後、51年に陸上自衛隊に入隊。精鋭の北海道・苫小牧の第11師団長(陸将)をつとめた人物だ。そして、55歳で自衛隊を辞めて、81年セブン入りすると、82年に取締役、92年に常務。同年に社長に就任するという、スピード出世ぶりだった。
栗田氏がスピード出世した時期は、ちょうどフランチャイズ組織が急拡大。加盟店主との訴訟や脱退騒動が立て続けに起きた時期だった。つまり、栗田氏はフランチャイズオーナーの反乱潰しと、本部に絶対服従させる「最強の組織と規律づくり」のために、鈴木氏に抜擢されたのである。