酒井順子『子の無い人生』(角川書店)
「女性にとってもっとも大切なことは子どもを2人以上産むこと」──いま、波紋を広げている大阪市立茨田北中学校・寺井寿男校長による発言。先日、女優の山口智子が「子どもをもたない人生を選んだ」と告白し大きな共感を呼んだばかりだが、やはりこの国ではいまだ“子を産まない女は女にあらず”と見なす価値観が蔓延っているようだ。
事実、校長の意見に対し、ネット上では「真っ当な意見」「これが糾弾されるのはおかしい」「一部を切り取って文句言うな。全文紹介しろよ」などと擁護する声も大きい。
まったくふざけるな、である。まだ中学生の子どもたちに校長という立場にある者が「(出産は)仕事でキャリアを積む以上に価値がある」「子育てをした後に大学で学べばよい」などと女性の人権を完全に無視した説教を垂れることの、どこに擁護する点があるというのだろう。女性には、産む・産まないの権利、いつ産むか、何人もつかを決める自由(リプロダクティブ・ライツ)があることを知らないのだろうか。
しかも、こうした偏狭な空気が流れているのは、校長の暴言問題だけではない。例の「保育園落ちた日本死ね」にしても、安倍晋三首相や平沢勝栄に同調して「匿名で物を言うな」「“死ね”はヘイトスピーチだ」と論点をすり替えたり、挙げ句は待機児童解消を訴える署名を手渡した母親たちの抱っこ紐に「あれはブランド品」「保育所に文句つける前に生活切り詰めろ」などと攻撃する者まで登場した。
「少子化だから子はたくさん産め」と言い、産んだら産んだで「国に頼るな。自分たちでどうにかしろ」「保育園なんかに預けず母親が育てろ」と責める……。こうしたいまの日本に吹き荒れる異常さを、あるエッセイストは〈子育て右翼〉と表現する。『負け犬の遠吠え』(講談社)がベストセラーとなった酒井順子氏だ。
酒井氏は先日上梓した新刊『子の無い人生』(角川書店)のなかで、以前問題となった「やっぱり女性は家で子育てをして、男性は外で働く方が合理的ですよね」という長谷川三千子・NHK経営委員の発言や、曽野綾子氏の「出産したら(仕事を)お辞めなさい」という発言を引き、こう論じる。