『菅原文太 日本人の底力』(宝島社)
戦後70年という節目の最後の月に飛び込んできた、作家・野坂昭如氏の訃報。戦争の悲惨さを訴え、最期まで安倍政権に警鐘を鳴らしつづけた野坂氏だが、またひとつ、戦争を知る世代の貴重な声が失われてしまった。
だが、野坂氏が小説やエッセイに思いを記してきたように、言葉は死しても人の心、そして紙の上に生きつづける。それはちょうど約1年前に亡くなった、俳優・菅原文太氏も同じだ。
先月末、一周忌にあわせて発売されたのは、『菅原文太 日本人の底力』(宝島社)という本。これは2003年4月から14年12月まで放送された同名ラジオ番組を書籍化したものなのだが、それがまるで、菅原氏がいまの日本に生きる人びとへ「考えつづけることを止めてはいけない」と鼓舞しているかのような内容なのだ。
力を入れていた食と農業の問題だけでなく、晩年は沖縄基地や原発の問題に積極的に反対の意志を示し、憲法改正の動きを警戒していた菅原氏。なかでも第二次安倍政権後の2013年には、はっきりとした安倍政権への危機感を口にしていた。
「安倍さんの言動は、われわれのような政治の素人から見ても、いろんなボロが見えてきます。深く考えていないのではないかと疑ってしまうぐらい、ポロポロとおかしなことが出てくる」
しかも、それは漠然とした不安から発せられたものではない。菅原氏は一例として内閣法制局の人事を俎上に載せる。
「先月、(2013年8月)、内閣法制局の長官が小松一郎さんという人に替えられたじゃないですか。彼は外務省出身で、法律家ではない。そんな人が「憲法解釈の変更がおよそ許されないことはないと考えられる」という発言をする。そうなると、これはもう出来レースなんじゃないかと思わざるを得ない」
この指摘は、その後の“暴走”を見事に言い当てているかのようだ。実際、この人事を皮切りに内閣法制局は政権に完全服従、過去40年以上も違憲としてきた集団的自衛権の行使容認を認め、挙げ句、憲法解釈変更の検討過程の資料さえ公文書として残していないことが毎日新聞のスクープによって明らかになっている。