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「障害児の出産を減らす方向に」発言の茨城県だけじゃない、日本中に蔓延する排除の空気と出生前診断に山崎ナオコーラが…

 といっても、本作は社会状況を告発したり糾弾するようなハードなものではない。むしろ、ゆるやかな連帯や“理想郷”を夢見る物語である。

 舞台は、〈関東地方最果て〉の場所で営業する小さなカフェ。幼なじみだった園子と鮎美というふたりの女性が38歳のときに開店し、すでに15年が経つ。ふたりとも小さなころからなんとなく南の島のハワイに憧れていたことから、店名は「ハワイアン・カフェ」。そして、新聞のラテ欄で見た「コミュニティ・カフェ」という言葉に感化され、それを名乗るようになると、店には育児相談をする母親や不登校児を連れた父親が集うようになり、ほんとうに地域の“コミュニティっぽく”なってゆく。

 その店で、鮎美の娘・菫が働くことになる。菫は、染色体が一本多いという〈個性を持っている〉。

〈生まれてから生後六ヶ月までは、とにかく菫を生き続けさせることに必死だった。菫はおっぱいを吸う力が弱いらしく、鮎美は一日中、少しずつ何度も飲ませ続けた。家の中だけで過ごした。外出は怖かった。人目につくことを恐れた。友人にさえ娘を見せるのをためらった。今から思えばそれは、かわいそうに思われるのではないか、下に見られるのではないか、というくだらない恐怖だった。〉
〈他の子たちよりも菫は多めの税金を使ってもらいながら大きくなり、自分が死んだあとは他人にお世話になるだろうことを思うと、社会に対する申し訳なさでいっぱいになった。〉

 そうやって社会から閉じこもっていく母子に、風を通したのは、友人の園子だった。園子は菫を〈ちっとも下に見なかった〉。そればかりか、一緒にカフェをやらないか、と鮎美にもちかけた。そして、「菫のことに集中しなくちゃ……」と鮎美が言いかけると、園子は3歳の菫にこう話しかけた。

「ねえ、菫ちゃんだって、カフェで働いてみたいよねえ? コーヒーっていう、大人専用のおいしい琥珀色の飲み物を提供するお店だよ。菫ちゃん、コーヒーカップを、取ってきてくれる?」
 
 何かを取ってくることなんて娘にはできない。鮎美はそう決め付けていたが、そのとき、菫は食器棚に向かって歩き出し、棚のなかのカップを指さす。菫は、理解していたのだ。園子は言う。「ゆっくり、ゆっくりやればいいのよ。成功や達成を求めるより、過程で幸せにならなくっちゃ」。

 菫の成長はほかの子と比べて遅く、合併症に苦しんだこともある。〈言葉の理解や発声に高いハードルがあるようで、なかなか周囲と上手くコミュニケーションが取れ〉ず、学校でも問題がたびたび起きた。小学校までは普通学級だったが、中学・高校では特別支援学級に通った。でも、菫は身体も丈夫になったし、〈常に明るく、なんでも楽しそうにチャレンジする子ども〉になった。ダンスだって上手だ。

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