市民のプライバシー情報がネットで世界中に拡散されたことも大いに問題だが、しかし、この事件の最大の問題は、警察組織が日本で生活するムスリムを片っ端から捜査対象にしていたという事実だ。ようするに、テロとは無関係にもかかわらず、ただイスラム教徒だという理由で、警察に尾行されたり、銀行口座を調べられたり、私生活の細部にいたる個人情報を収集されていたのである。
当時の「フライデー」(講談社)2010年12月31日号が、この流出事件でテロリストに“でっちあげられた”男性の肉声を伝えている。都内でエスニックカフェを経営していた男性は、「危険人物」「テログループのインフラになる恐れあり」などとされ、警察に収集されていた顔写真や個人データを晒されてしまった。男性はこう語っている。引用しよう。
「こんなデマが広がれば、店がつぶれてしまいます。それに私の子どもはどうなりますか? 父親がテロ関係者などと言われたら、仲間外れにされ、イジメに遭いかねません。私の国はテロ対策に厳しいですから、もう国にも帰れない。いったい私はどうすればいいんですか……」
男性は公安警察により生活の基礎をズタズタにされてしまったのだ。
おそらくこれと同じことが再び起こるだろう。いや、もっとひどい微罪逮捕や犯罪でっちあげも行われるかもしれない。マスメディアが在日外国人を“危険人物扱い”し、イスラモフォビアを煽ることで「アラブ系の人は怪しまれてもしかたがない」という風潮ができあがれば、警察権力による違法捜査への抵抗感が薄まり、警察はどんどん違法捜査をやりやすくなる。
さらに、国内で在日外国人に対する偏見やイスラモフォビアが広がることは、実は、安倍政権にとっても非常に都合がよい。日本で生活する外国人やムスリムを、市民に蔓延する“テロへの不安”のスケープゴートに仕立てあげることで、責任転嫁をすることができるからだ。
周知のように、日本がISのテロの標的となったのは、安倍首相による積極的平和主義外交、安保法制で米軍および有志連合との結びつきを強めた結果、である。しかし、国内に“敵”をつくりだせば、国民の目をこの外交政策の失敗からそらすことができる。警察当局だけでなく、官邸がそういう狙いをもって、あたかも国内の在日外国人にテロリストがすでに潜入しているかのような情報を率先して流し始めるかもしれない。