おそらく、岩田氏と同じように考えている人は多いだろう。資源小国の日本にとってタンカーが行き交う南シナ海は生命線。それを中国に支配されたら日本に石油が入ってくるルートが途絶えてしまう──。だが、実際はこうした意見こそが現実を無視したものだ。
中国は現在、この水域で他国の商船の自由通航を妨げてはいないし、仮に将来、そこが完全に中国の領海になったとしても、日本のタンカーが自由に通航できなくなることはありえない。
なぜなら、国連海洋法条約では、すべての条約加盟国の船に他国の領海の無害通航権が認められているからだ。これは、沿岸国の平和、秩序、安全を害しない限り、他国の船舶も領海を自由に通行できるという権利のことで、商船については中国を含むほとんどの国がこの権利を認めている。
にもかかわらず、「中国に南シナ海を支配されたら日本のタンカーが航行できなくなる」などというのは、国際法を知らないか、知っていながら中国との対立を煽ろうとしているか、どちらかだろう。
誤解を受けないように断っておくが、筆者は中国の肩をもつ気はサラサラないし、もちろん人工島の造成が正当だとも思わない。
海面に出ていない岩礁を埋め立てて人工島を造成し、それを起点に周辺12海里を“領海”と主張するような振る舞いはもちろん、中国内には人工島を造成している海域、「九段線」の内側をすべて自国の領海もしくは排他的水域とする主張もある。これは到底、国際社会で受け入れられるものではない。
さらに、中国の問題点は、前述した「領海の無害通航」を商船については認めているものの、軍艦について否定していることだ。 一般に、軍艦でも他国の領海を通過する場合は、その領海内で停船したり、訓練行動をしたり、調査や情報収集の活動をしたりしない限り無害通航として認められている。ところが今回、米イージス艦はあらかじめ無害通航であることを中国側に通告しているにもかかわらず、中国は“領海内”での航行を問題視し、遠巻きながら中国艦船での警告・監視行動に出たのみならず、外交ルートを通じて抗議も申し入れた。
このように、中国の南シナ海での行動にはいろいろ問題があるが、前述したとおり、商船は自由に通航できるわけだから、これが直ちに日本に影響を与えることはあり得ない。野田聖子氏が「(南沙の問題は)直接、日本に関係ない」と言ったのは、そういう意味だ。