村上春樹『職業としての小説家』(スイッチパブリッシング)
今年もまた、まったく同じ光景が繰り返された。「村上春樹、今年こそノーベル文学賞を受賞するか」騒動である。
2006年にカフカ賞を受賞して以降、10月には毎年のように、「今年こそ村上春樹受賞なるか」と様々なメディアが大騒ぎを繰り広げている。きのうも、書店の村上春樹コーナーや、ハルキストと呼ばれる春樹ファンたちがカフェに集まり受賞の報せを待つ様子、春樹の海外のファンの声など、今年こそはと受賞を期待する特集が展開されていた。
そして、別の作家の受賞が発表され「がっかり」……というところまでが、すっかり風物詩となっている感すらある。落選はじつに10年連続で、ここまで続くと、結局このまま獲れないんじゃないか、と不安になっているファンもいることだろう。
昨年本サイトでは、「春樹は今後もノーベル賞を獲れないのではないか」、というか、「そもそもノーベル賞候補に入っていないのではないか」。そんな可能性を指摘していた。今年も落選だったことで、この説の信憑性がますます高まった。2年連続で恐縮だが、以下に再録するのでぜひご一読いただきたい。
(編集部)
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村上春樹はこれから先もノーベル文学賞は獲れないのではないか。こう指摘するのは、評論家で作家の小谷野敦。小谷野は、著書『病む女はなぜ村上春樹を読むのか』(ベスト新書)のなかで、春樹ノーベル賞の可能性について様々な角度から考察しているのだ。
そもそも村上春樹はノーベル賞の候補に本当に入っているのか。そこから小谷野は疑問を呈する。というのも、この時期報道でよく目にする「下馬評で1番人気」「最有力候補」などというのは予想屋が勝手に予想しているだけのもの。ノーベル賞の選考委員会は候補を公表しているわけではない。ノーベル賞委員会は50年経つと候補を公開することになっており、たとえば今年はじめに1963年の最終候補から三島由紀夫が一歩手前で漏れていたことがわかったり、当時日本では全くノーマークだった賀川豊彦が実は1947年の候補だったことが50年を経て初めてわかったり、などということがあった。春樹がこのまま受賞しなければ、本当に候補に入っているかどうかは、50年経たないと真相はわからないというわけだ。