『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)
ネット通販市場の急激な成長によって、パンク寸前状態に陥っている宅配業界。過去10年でネット通販市場が約10倍に膨れ上がる一方で、宅配業界は人手不足にあえいでいるのだ。
そして、この人手不足に拍車をかけているのが、宅配業界における労働環境の厳しさだ。ジャーナリスト・横田増生氏は実際に宅配業者の現場に潜入し、その実情を著書『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)でレポートしている。ここでは、なんとも過酷な宅配業者の現実が詳らかにされている。
たとえば、業界最大手であるヤマト運輸の下請け業者のケース。横田氏は、ヤマト運輸の宅急便を各家庭に配達する菊池次郎(仮名)という下請け業者の助手として、その1日に密着している。
仕事が始まるのは朝の7時すぎ。ヤマト運輸の宅急便センターで菊池は自分の軽トラックにその日配達する荷物を積み込んでいく。報酬は運んだ荷物の数によって決められ、その額は「1個150円強」だという。菊池が働くセンターでは、1日に100個程度の荷物が回ってくるとのことで、単純計算すると日当は1万5000円ということになる。
「菊池がこの日、3回の配達で合計100個強の荷物を配り終えたのは午後九時前のこと。不在で持ち帰った荷物は1個。不在の分は、菊池の売り上げとはならない。(中略)
1日の走行距離は15キロにも満たない。しかし、拘束時間は14時間近くとなった。1万5000円が日当とすると、時給は1000円強となる。しかし、そこから車両代やガソリン代、車検代や保険代など必要経費を合計すると月7万円近くかかる。その分の経費を差し引いて計算し直すと、時給は800円台にまで下がり、首都圏のコンビニやファーストフードの時給より安くなる」(同書より、以下「」内同)
当然だが、配達員の仕事は肉体的にもかなりきつい。にも関わらず、コンビニより安い時給で長時間勤務し、さらには下請けだと3カ月で契約が切られてしまうのだという。労働の条件としては相当に厳しいものであり、人手不足になってしまうのも仕方ないというしかない。
現在、日本国内の宅配業界は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社で90%以上のシェアを占めているという状態だ。経済の原理からすれば、寡占状態にあるということは、過当競争もなくなり、運賃が上昇してもおかしくないのだが、実際には逆行していった。