今回の安保法制でも野党側はこうした抵抗策を考えており、時事通信の記事(9月16日付)によると、参院本会議採決へと動けば、中川雅治・参院議運委員長の解任決議案、山崎正昭・参院議長の不信任決議案、安倍晋三首相と中谷元防衛相への問責案などを提出することを想定しているという。また、「新国立競技場の建設計画見直しで責任論が出ている下村博文文部科学相らの問責案」も提出すべきという意見もあるらしい。とにかく数を打って少しでも時間を引き延ばそうという算段だが、そこで時間かせぎの真打ち(?)たる牛歩の出番となるわけだ。
ただ、問題なのは、牛歩には悪しきイメージが強い、ということ。1992年、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)協力法案の採決に際して、当時の社会党などの野党がこの牛歩戦術を採用。31時間も牛歩をつづけ、じつに4泊5日におよぶ徹夜国会で徹底的に抗したが、結果としては自民党をはじめとする与党が数で押し切り、あえなく失敗した。
しかも、この牛歩は国民から大顰蹙を買った。メディアはこぞって牛歩を取り上げ、「国民がしらける あんな牛歩で「戦った」とは笑止千万」「低次元の牛歩国会」「生理的苦痛残るだけ」と批判を展開。国民からも「みっともない」「無駄な抵抗」「潔くない」とブーイングが起こった。
そのため、今回の安保法制でも、牛歩戦術を野党が取ればこうした世論が生まれる可能性は高い。牛歩はその名の通り、ビジュアル的にも情けなさが伴う。ここにつけ込んで、露骨な政権擁護に傾いた読売新聞や産経新聞、フジテレビに日本テレビ、普段は批判を恐れて政治ネタを扱わないワイドショーなどは、ここぞとばかりに牛歩を嘲笑い、“みっともない野党”を印象付けるだろう。言わずもがな、ネット上ではネトウヨが大挙して炎上祭りを展開することは必至だ。
だが、牛歩とは、まったくもってみっともない戦術などではない。これは真っ当で立派な抵抗手段なのだ。