もちろん、難民問題を語る前に、国内の貧困に目を向けるべきだという批判もあるだろう。だが、国内の貧困も難民受け入れも、根本には同じような問題がある。なぜ、国内の貧困が問題化している最中に社会保障費は削減するのに、防衛費は増額するのか。なぜ、「積極的平和主義に基づく国際貢献」と安倍晋三首相は連呼するのに、国際貢献の基調となる難民受け入れを積極的に行わないのか。──これは、著者が指摘している“人権・人道の問題よりも政治・外交問題が優先”という問題とも重なるものだろう。
先日、新宿の歩行者天国で行われた安保法制反対集会で、ひとりの外国人がシリア難民の男の子の写真を掲げながら「NO WAR」と叫び、片言の日本語で「センソウスルト、コウナルンデス」と訴えている姿を見た。報道によればその彼は、亡くなった男の子と同じクルド人だったらしい。
亡くなった男の子の話は、遠い国で起こった悲劇ではない。あの写真がわたしたちに投げかけるもの。それは、安倍首相の言う「積極的平和主義に基づく国際貢献」がまやかしに過ぎないということであり、あらゆる武力による戦争・紛争を憎み、世界中で起こる貧困や弾圧によって苦しむ人びととわたしたちはどのようにつながることができるか、ということではないのだろうか。
(水井多賀子)
最終更新:2015.09.09 07:04