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「売れてる本」の取扱説明書③『英語の害毒』(永井忠孝)『英語化は愚民化』(施光恒)

英語が日本をダメにする?“英語化批判本”が語るのはグローバリズム批判か排外主義か

 また、アメリカ・インディアンやオーストラリア・アボリジニなどの少数民族について、自分たちの言語を捨てざるを得なかった彼らは「白人の世界でも二級市民あつかいで、行き場のない根無し草になって」しまい、「希望や自尊心を失い、多くの社会問題を抱える」と決めつける記載は危うい。「アメリカのインディアンとエスキモーの自殺率は、アメリカ全体の平均より1.8倍」と関連づけて憂いているが、それならば自殺率の国際比較として10万人のうち13.7人が自殺するアメリカに対して、23.1人が自殺する日本(2012年推計・社会実情データ図録参照)はどうなる。全体の論旨には賛同する部分も多いのだが、言葉の壁があるからこそ今のところ外国人社長は少ないとし、「もし日本人の多くが英語の会話言語能力を持っていたらどうだろう? 言葉の壁がなくなる分だけ、外国人社長が出やすくなることが予想される」といった閉鎖的な懸念には首を傾げたくなる。いずれやってくる未来として「富裕層・経営者は外国人が専有し、英語の学習言語能力を駆使して会社を経営する。一方の日本人は貧困層・低賃金非正規労働者ばかり」と繋げるのも強引だろう。「外国人の進出ははじまっている」という見出しから、「テレビや雑誌に出るモデルの多くは白人かハーフだ」という内容が始まってしまえば、いよいよ閉口する。

『英語化は愚民化』で語られたように「日本社会を英語化する政策を批判しても英語教育を軽視しているわけではない」を軸足にするべきで、あたかも強い勢力の台風が襲いかかるかのように、英語旋風が日本の土壌を荒らしていくという考え方には慎重になるべきではないか。政治・経済・教育などの現場における言語のパワーバランスと、個々人との語学力とをそれぞれ分解して問うべきだろう。全部引っ括めて「英語なんて害だ」と宣言するのは無謀だ。大きなスローガンは、なにかと排他的な感性を携えてしまう。まず危ぶむべきは言葉の問題ではなく、安保法制やTPPで「対米従属」の度合をどこまでも高めようとする政治の問題だろう。英語という常にキャッチーな題材が眼前のリスクを見えなくさせるようでは元も子もない。
(武田砂鉄)

■武田砂鉄プロフィール
1982年生まれ。ライター/編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「マイナビ」「Yahoo!ニュース個人」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。近著に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

最終更新:2018.10.18 03:41

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