同じく、関東の私立中学・高校で社会科を担当する49才の男性教員は、歴史の教科書のなかで幕末や明治期に来日した外国人による日本批評を紹介したページに注目する。「医学者ベルツが見た日本」のなかでは、ベルツが文明開化を急ぐ当時の日本が「何と不思議なことに、現代の日本人は自らの過去についてもう何も知りたくはない」などと伝統を顧みないことを批判していたと紹介されるのだが、男性教員は、これは「典型的なオリエンタリズム(西洋中心主義)」だと指摘する。「文明開化を始めた日本を嫌がった『非西洋は非西洋のまま変わるな』というメッセージ。今日では帝国主義だとして世界的にも批判されていることで、授業で教えれば高校生でも問題点を指摘できると思う。にもかかわらず、そうした見解を喜んで受け入れていることにびっくりした」。
現場の教員たちに戸惑いが広がるなかで、育鵬社の教科書が採択を続けるのはなぜか。「週刊金曜日」(金曜日)15年6月5日号によれば、その背後にはやはり安倍政権が進めてきた教育改革と支援があるという。
公立小中学校の教科書は、学校を所管する地区内の市町村教育委員会により採択されるが、安倍政権がつくりだした新制度では教育委員長と教育長を一本化。首長の権限が強まっている。そのなかで、安倍政権が全面的にこの育鵬社の教科書支援に乗り出しているのだ。
同誌は今年5月13日、4年前と同じ六本木ヒルズで開かれた最新版育鵬社教科書の出版記念集会の模様をレポートしているが、記事よれば、安倍首相本人こそ姿を見せなかったものの、安倍首相の盟友中の盟友と言われる参議院議員の衛藤晟一・首相補佐官も登壇し、次のような趣旨を述べたという。
「安倍政権は、日本の前途と歴史教育を考える議員の会(教科書議連、1997年~)の議員が中心になって誕生させた。第三次政権の中核は議連メンバーが占める。安倍首相と『慰安婦』問題を追及し教育基本法を改正した。もう一つが教科書だ」
「この素晴らしい育鵬社の教科書を採択できるように努力したい。私どもの考えと近い首長を選んで、そこで教育行政がきちんと行なわれるように、その意思を受けた教育長が選任されなければいけない。教育長と首長がどういう教科書を採択するか、決める権限がある。いよいよ本番だ。教科書採択にかかっている」