さて、このようにヴァラエティに富んだ作品群を堪能したあと、改めて気付かされるのは、戦争の悲惨にずっと立ち向かってきたマンガという文化の豊穣さだ。実は本号には、それを読者に意識させるような仕掛けがほどこされている。
それは巻頭ピンナップ。表紙をめくると、まず目に飛び込んでくるのは画家・藤田嗣治の「アッツ島玉砕」という戦争画。無数の兵士が画面を埋めつくす凄惨な殺し合いを描いた一枚だ。
そして、その裏面には戦争×マンガの歴史を俯瞰するようなコラージュ。『アドルフに告ぐ』、『はだしのゲン』、『気分はもう戦争』など歴史に残る名作戦争マンガのコマ・台詞がかなりポップな調子で配置されているのだ。
この表裏のコントラストにはとても文面では伝えきれない感動があるので、ぜひ実際にご覧いただきたいと思う。
編集後記によると、戦後70年談話に軽くぶちあてるくらいの気持ちで始まったこの企画は、事態の進展を受けて、どんどん「緊張感をはらんだ物」になっていったそうだ。
〈漫画家はやはり自由の民です。本能的にお上の胡散臭さを嗅ぎ分けてますし、自分の生死は自分の戦場で決めたいと考えています。だからこの増刊は時代のカナリアかもしれません。〉
マンガ評論家の南信長氏が本号への寄稿文で述べているように「今や日本が世界に誇る文化となったマンガ。その発展は、戦後70年間、まがりなりにも続いた平和のおかげにほかならない」。
これだけは断言できる。日本が──コンテンツ立国をうたうこの国がすべきことは、平和を守り続けることであって、絶対に戦争ではないのだ。
(松本 滋)
最終更新:2018.10.18 04:44