また、自衛隊は幹部候補生になるという条件と引き換えに大学3・4年生および大学院生に毎月5万4000円を貸与する制度も設けている。しかも、貸与を受けた期間の1.5倍以上所属すると返還しなくてもいいというおまけ付きだ。
ようするに、安倍政権は格差助長政策によって、貧困層をつくりだす一方、その貧困層を自衛隊に引き込み、戦場に送り出そうとしているのだ。これはある意味、本当の徴兵制よりももっとグロテスクな制度というべきだろう。なぜなら、「国民が自分の国を守るのは義務だ」といいながら、実際は富める者はその義務を負わず、経済的弱者にだけリスク押し付けることになるからだ。
実際、米軍をはじめ、徴兵制を廃止した先進国の軍隊はほとんどがそういった歪んだ状況におちいっている。
たとえば、イラク戦争が泥沼化した2005年、米国では今回の自衛隊と同様、公立高校から入手した名簿をもとに、貧困層への狙い撃ちが行われ、社会問題になった。
当時、朝日新聞がこの問題を特集しているが、そのなかで新兵募集の反対運動に取り組む非暴力資料センターのボブ・フィッチ氏が、こんなコメントをしている。
〈ブッシュ大統領は昨年の選挙で「徴兵制は導入しない」と約束した。「皆さんの子どもは戦場に送らない」という中産階級に向けたメッセージだったと思う。
だれが戦争に行くのか。状況を一番よく言い表す言葉は「貧乏人の徴兵制」だ。進学や就職などの選択肢がなく、金と仕事に困っている若者が標的になる。
予算を人質に学校から個人情報を入手して電話をかけまくる。ビジネスのマーケティングと同じだ。学費補助にしても、受けるには条件がいろいろある。明らかなウソはつかないが、誤解させる。〉(2005年8月12日付朝刊)
集団的自衛権を容認によって米国の属国化をさらに推し進めた安倍政権は、自衛隊のリクルートでも米国とそっくり同じ道を歩もうとしている。
(野尻民夫)
最終更新:2015.08.08 12:12