たしかに、その歴史の長さ、対象作品、選考方法など、、芥川賞と本屋大賞は異なる点が多い。なかでも、大きなちがいは芥川賞・直木賞がプロの作家が選考するのに対し、本屋大賞は書店員が「売りたい本」を選ぶという点だろう。
しかし、本サイトでも繰り返し指摘してきたように、今回の又吉の芥川賞もまた不況にあえぐ出版界が「本を売る」起爆剤を欲した結果である。
「僕の小説で全然合わないけど、他の人の小説はおもしろくて、読む人もいると思うんで、僕の小説を読んで合わへんかったからって、小説読むのはやめようとジャッジしないでほしい」
「100冊読んだら、絶対、本好きになると思うんです。最初の2、3冊で難しくてわからないこともあるかもしれないけど、そこまでがんばってもらいたい」
又吉が受賞会見でこう語ったのは、出版界から小説界のスポークスマンを期待されていることを自覚しているからだろう。
古舘が、そうした「話題をつくりたい」「売りたい」という、芥川賞の背後にある出版界の意図を感じて、「芥川賞も本屋大賞も変わらない」と発言したのなら、的外れとはまったく言えない。「本を売るために選ばれた賞」という意味では、今回の芥川賞も本屋大賞もそうたいしたちがいはないのは、その通りだ。
しかも又吉は書店員からの支持も高いだけに、このままいけば来年4月に発表される第13回の本屋大賞でも又吉の『火花』が選ばれる可能性はかなり高く、そうなれば文字通り「芥川賞と本屋大賞は一緒」になる。
ただ気になるのは、古舘が、本屋大賞に比べて芥川賞にはなにか特別な権威があるかのように思っていることだろう。
「芥川賞と本屋大賞の区分けがなくなった気がする」
「芥川賞と明らかに、時代が違うといえばあれですけど、僕なんかの年代はあれ?って気もちょっとするんですけどね」
まあ確かに、かつての芥川賞では、当時から高い人気を誇っていた村上春樹やよしもとばなな、いまや芥川賞選考委員でもある山田詠美や島田雅彦などもバンバン落選させられていたことを思えば、今回又吉がデビュー作でスルッと受賞したことに「あれ?」と思う気持ちはわからなくもない。