また本書のタイトルでは独裁体制から民主主義への移行を示しているが、本文中には「独裁体制または侵略者」という表現があるように侵略者への抵抗方法にも読み替えられる。まずはここではその文脈で読んでもらいたい。
ジーン・シャープは独裁体制を打倒して民主主義と自由の拡大を目指しているが、その最大の特徴は非暴力を徹底して訴えていることだ。それはまず何より「暴力的な方法に頼るのはまさに、抑圧者がほぼ常に優秀となるような闘いを選んでしまったということだ」「たいてい独裁者側にはより優れた軍事施設や弾薬、交通手段、兵士数が揃っている。勇敢さはあれども、民主勢力は(ほぼ常に)かなわない」からだ。だから、相手の得意とする暴力の土俵にのぼらず、非暴力闘争を選べと説いている。
ただし誤解してはいけない。ジーン・シャープのいう「非暴力闘争」は権力に許された範囲内で秩序を守りながらおこなわれる反対運動ではないし、権力の暴力的弾圧に屈することでもないし、選挙を通じた議会内闘争のことでもない。「非暴力闘争」「非暴力抵抗」「政治的抵抗」は相互交換可能な用語として、こう説明される。「『政治的抵抗』は、非暴力闘争(抗議、非協力、そして介入)が挑戦的に、また活発に政治的目的のために使われたものである。この用語は、非暴力闘争が平和主義や、道義的、宗教的な“非暴力”と混同したりゆがめて解釈されたりすることへの対応として生み出された。……この用語が用いられるのは主として、民衆が政権の力の源を容赦なく攻撃し、戦略の計画と運営を慎重に行うことで、政治機関の支配を独裁政権から奪い返すことを指す」したがって、非暴力闘争は、現在の日本社会の空気が許容するお上品な政府への抗議運動の範囲を大きく超えている。合法の枠には収まらず、議会に拠らず民衆が直接行動し、権力を批判するのではなく権力を奪取するのだ。なにしろ、独裁政権を転覆させるんだからな。
ジーン・シャープは具体的な抵抗の方法に先立って、独裁政権を成立させている政治構造を分析している。
「原理は簡単だ。独裁者は統治する民衆の支えを必要とするということだ。これがないと、政治的な力の源を確保し維持することはできない」