「まず、近くのホームセンターに行きました。そこで丸い木の棒を2本、そして、チェーンとネジ止めを買いました。家へ帰ってきて、カンナで削ったり、2本の棒を短く切って、2本をチェーンでネジ止めして、見よう見まねで「ヌンチャク」を作ったんです。翌朝、学校に行き、ボクは行動を起こしました。教室に入ると、いきなり、みんなによく見えるように、この手製ヌンチャクを振り回し、大声をあげて暴れまくったのです。気持ちはすっかりジャッキーでした」
「(略)そしてボクは、彼らのほうに向い、特にボクをいじめていた憎いヤツの顔を、その手製ヌンチャクで叩きました。もう学校中が大騒ぎです。先生からこっぴどく叱られましたし、そのヌンチャクも没収されました」
この日を境に、彼の生活は一変。いじめはなくなり、これまで話さなかったクラスメートも話しかけてくるようになったという。
やられた暴力に対して、ただ黙って耐えるのでもなく、周囲に助けを求めるのでもなく、やり返した。
それで彼はいじめ問題を解決したというのだが、しかし、実はこのやり方、いじめ対策として絶対に語ってはいけない方法ではないのだろうか。
元・文部科学省いじめ問題アドバイザーである小森美登里が書いた『いじめのない教室をつくろう 600校の先生と23万人の子どもが教えてくれた解決策』(WAVE出版)によると、大人たちがこうして「やり返すことが強さ」「やり返せないのは弱い子」と教えていることこそが、いじめの連鎖を生んでいるのだという。
「「やり返してもいい」と教わった子どもがやり返し、やられた子どももやはり大人から「やり返してもいい」と教わっているので更にやり返します。いじめは連鎖して問題は大きくなり、深刻化していきます。その間、子どもの傷は深くなり、問題解決をも困難にしていきます。
また「思い切りやり返せばよい」ということでは、解決できません。やられた子どもの心には、大きな傷が残ります。その傷や悔しさ、悲しさ、怒りは、心に争いの種を残し、その種はいつか誰かに向けて爆発してしまうかもしれません。やり返すことで一体何を生み出しているかを、もう一度認識しなければならないのです」