安田浩一氏の新刊『ヘイトスピーチ 「愛国者」たちの憎悪と暴力』(文春新書)
(前編より続く)
東京・新大久保や大阪・鶴橋で過激な排外デモを行う在日特権を許さない市民の会(在特会)をもっとも早くから取材してきたジャーナリスト・安田浩一。ヘイトスピーチについての報道もなされるようになった現在だが、Webメディアをはじめ、その報道のありかたには懸念を抱く部分もあるという。ロングインタビュー後編をお届けする。
■ネットニュースはドローン少年の取材力を見習え!
安田 最近すごく気になっているのがドローンを飛ばして逮捕された15才の少年です。実は僕は来週あたり、彼と仕事で会う予定になっていたんです。でも逮捕されて流れてしまった。
彼はまだ15才ではありますが、最も「ネット」というメディアを使いこなしている一人ではあると思います。彼は警察の忠告まで無視してドローンを飛ばした。何の政治性もないけど、ある意味反権力的な姿勢も持っている。一方では川崎で年上少年グループからのリンチによって殺害された上村くんのお通夜を生中継したり、現場に張り込んだりという動きをしているわけですよね。あれが僕、Web時代のジャーナリズムのひとつの姿だと思ったの。
断っておくと僕は全然、彼の取材姿勢を肯定しません。なぜならば、彼は取材の訓練をしていないせいか、人権に対する配慮や思いもないばかりか、理念も理想も感じられないから。だけど「とにかく現場に行ってやろう」というジャーナリスティックな精神だけは認める。僕はね、彼のやりかたをきちんと「報道」という形に軌道修正できればある意味素晴らしいジャーナリストになると思うんですよね。
彼が犯罪被害者宅の通夜を生中継したり、関係者の顔を流したりすることには嫌悪に近いものも感じます。人の痛みに関する想像力が欠けているし、人権とは何であるのか、徹底的に叩き込まなくちゃいけない。でもとにかく現場に足を運んで、何かを伝えようとしていることには、わずかだけどすごくジャーナリスティックな精神を見る思いがします。
そういう腰の軽さを、今のWebメディアも少しは見習えよと思うわけです。僕自身ネットはダメで、Webのこと詳しくはわかりません。でも、ほとんどのWeb媒体は現場に来ないでしょう? タテマエでもいいからまず現場に足を運んで、実体や内実を自分の網膜に焼き付けるという作業くらいはしてほしいと思うんですよね。でも現状はネットのなかに出る借り物の映像と借り物の言葉だけで作られているのが今のWebメディアだと思うんです。自前の言葉と自前の風景を獲得しろと、僕は言いたいですね。