■ドワンゴは「差別に加担した」ことに対して社会的けじめを!
──自分もできる限り現場に足を運ぶことを心がけています。ただ、どんなに頑張って取材をして記事を書いたとしても、それがネットに上がった瞬間、あっという間にまとめサイトに転載されてエサにされ、相対化されてしまう。そういう現状が個人的にすごく歯痒いんですよね。どういう対抗の仕方があるんだろうと今でも考えます。
安田 それはつねに考えざるを得ないところですよね。「これだ」という答えが出せればそれに越したところはないんだけど……。エサにされたり消費されるのは、むしろ仕方ない。
ただ「現場に足を運ぶ」という脚力に関しては胸を張っていいと思います。ネット上で言葉を拾う一部のメディアに対し、僕らは自分の足で言葉を取りに行く。風景を掴みに行く。現場に来ないで好き勝手言っている人達との差はいずれ出てくると思う。
はっきり言うけど、保守とか右派と呼ばれるメディアをイデオロギーだけで軽蔑はしません。軽蔑するのは取材力です。保守や右派、もっといえば今の差別主義者、ヘイト団体を含めてきちんとした取材をして後世に残るノンフィクションというものを見たことがない。右派論壇のなかでも新聞記者出身の人はいますが、その人たちに取材力で1ミリたりとも負ける気がしません。お互いにとってすごく不得意なネタで同じ条件で、同じ資金で、同じ取材費をもらって、よーいドン式に取材しても、絶対に負ける気がしない。
僕は業界の中できわめて優れた取材力や幅広い人脈を持っているわけではない。週刊誌記者時代はできない人間だとさんざん言われてきたダメ記者だったわけ。にもかかわらず、0.1ミリも負ける気がしないんです。その意味では是非取材競争してみたいですね。
──今日お話を伺ってきた中で、Webメディアで仕事をする一人として安田さんと同じように憤りを感じると同時に、耳の痛い内容がたくさんありました。今後の安田さんの活動はどんな方向に行かれるんですか?
安田 芸能とか地域問題とか、ライターとしてやりたいネタは今、いくつも抱えています。全部本にするつもりで、今も取材をしています。ただ、ヘイトスピーチの現場に関して言えば僕はネタがあろうがなかろうが、極力現場に行きたいと思っています。なぜなら僕もカウンター、反対者の一人だから。
先日、ニコニコ動画で在特会の公式チャンネルが閉鎖されました。組織としての在特会はボロボロだという気はします。でも彼ら、あるいは彼らにシンパシーを寄せる人達によって、差別のハードルは相当低くなりましたよね。それが結果的に権力と相互補完しながら差別のタネを色んなところに埋め続けている。その潜在的な影響力がすごく怖いですね。ドワンゴはたしかに在特会の公式チャンネルを打ち切ったかもしれない。それは在特に対する勝利だとしても、ドワンゴという企業に対する社会的なけじめはついていません。ドワンゴは自分たちが「差別に加担した」ということに対して、企業として明確に意思表示する必要がありますよね。差別と偏見を色々な形で流布するそうした勢力との闘いがこれから始まるんじゃないかと思います。
僕はこれからもたぶん、この問題を書き続けると思います。一度手がけた以上最後までやりたいという記者としての使命感・義務感はもちろんあります。でもそれ以上に、彼らに明確に反対する意思表示を僕なりに続けていきたいという気持ちがある。ネタを取るためというより、今この社会に生きている一人として反対したいから、現場に行きます。そういう意味では、これからも取材は終わらないですね。
(インタビュー・構成 松岡瑛理)
最終更新:2015.06.06 07:11