徹子はこのラジオドラマをきっかけに評判となり、「NHK三人娘」として売り出され、仕事も増えた。いまなおテレビを彩る黒柳徹子という個性と才能を見出した人物、その人こそが飯沢氏なのだ。まわりからはみ出し者扱いされてきたなかで、こんなふうに自分を認められたら……たしかに、恋に落ちても不思議はないのかもしれない。
また、同書によると、徹子はそのころ3度のお見合いをしている。最後の1人とは結婚も考えた。だが、〈ふと、「自分の結婚式の帰り道で、出会いがしらみたいに、『あ、この人がいい!』みたいな男性に出会っちゃったらどうしよう?」と疑問を持ったのがキッカケで、私は考え込んでしまった〉といい、結局、破談になったという。この文章には、徹子の恋愛・結婚観がよくあらわれているのではないだろうか。
ちなみに同書には、当時の徹子の写真がおさめられているのだが、番組収録中、徹子はなぜかマイクの上に鼻を乗せている。いわく、「疲れて頭が重くなり、(中略)少しでも楽になろうとしてる」らしい。写真のなかの徹子は、いまでいうと能年玲奈のような透明感と無垢さにあふれていて、とてもキュートだ。もしかすると、このとき人には話せない恋愛を彼女は秘めていたのかもしれない──そう考えると、胸に込み上げるものがある。いまでは年齢も性別も超えたようなひとつのキャラクターとして徹子を捉えがちだが、彼女にもひとりの女性としての人生が当然あり、青春の輝きや悲しい別れを刻み込みながら、きょうまでテレビの第一線に立ちつづけているのだ。
じつは徹子は38歳のとき、1年間に渡って休業し、ニューヨークで暮らしている。そのときのことを、徹子は同書にこのように書いている。
〈ニューヨークで得たものや失ったもの、見たもの感じたもの、希望や絶望、などはとても書き尽くすことはできない。ただ、女が生きていくのは、大変だってことがわかったのは確かだった。あの街での体験は、私の中に今も深く、鮮やかに居座っている〉
女が一人で生きていくのって大変。この本の徹子の言葉からは、テレビで生きてきた彼女の、テレビでは見せない素顔が見え隠れする。
(大方 草)
最終更新:2015.06.01 12:07