「70万人の方が都構想に賛成し、政治家として大阪のため、日本のためにまだまだ頑張ってほしいと賛成票を投じた。その数を見ても気持ちに変化はありませんか」
「(引退)発言を覆してほしいと思っている有権者も多いと思うが、ほんとうに(続投や再出馬は)100%ないんでしょうか」
この質問に対して橋下が余裕綽々で語ったように、彼には府知事選出馬時に「2万%出ない」と言いながら、あっさり覆した過去がある。報道側としてはしつこく念を押し、政界引退の言質を取っておくことは必要であろう。そこまではわかる。しかし質問はさらにこう続くのだ。
「12月(の任期満了時)になって、あるいは10年後20年後の将来、大阪や日本の情勢が大きく変わっていた場合、もう一度政治家に(なる)という可能性はあると期待していいんでしょうか」
このアナウンサーは橋下が府知事時代に長く番記者を務め、あまりメディアの人間と個人的に付き合わないと言われる橋下に、かなり食い込んでいたという。身内意識からの気安さが言わせたのだろうか、「期待」という本音が出てしまったわけだ。
そこまで露骨でなくても、他の記者たちも似たり寄ったりである。
「安倍総理のようにリベンジ(再登板のことだろう)はないのか」
「テレビコメンテーターとして引っ張りだこだと思うが、どうするのか」
「(関係の深い)故・やしきたかじんさんや島田紳助さんに何を伝えたいか」
「市長ではなく、橋下徹個人としてメッセージを」
これはいったい何のための会見なのかと呆れるばかりだが、これらほとんど「ラブコール」と言っていいほどのアシストを数々得て、橋下はますます笑顔になり、弁舌はどんどん滑らかになっていった。
「戦を仕掛けて負けたのに命を取られない。民主主義とはほんとうに素晴らしい政治体制だ」と、本サイトの別記事で指摘した「多数決至上の民主主義」論を滔々と繰り広げたのに続き、「嫌われてもやることはやる僕みたいな政治家はワンポイントリリーフでいい」「8年前は僕のような敵を作る政治家が求められた。今回いらないと有権者に言われたのは、この8年で大阪が安定したということ」と、しっかり自分の“実績”もアピールする。テレビ局に圧力文書を送ったことを棚に上げて、「報道の自由こそ民主主義の根幹」と記者連中を激励してみせたかと思えば、「テレビ局はディベートのルールがわかっていない。都構想の討論番組で賛成・反対の時間配分がおかしかった」と、巧みに敗因を責任転嫁する。
時間にして約2時間。橋下の会見が独演会になるのは今に始まったことではないが、「都構想」という彼の最重要課題であり、政治的原点が否定されてもなお、記者たちは彼を持ち上げ、好き放題に語らせるばかりだった。