『アル中ワンダーランド』(扶桑社)
政府与党は、2016年の税制改正でチューハイの税率引き上げを検討しているという。現在、缶チューハイの販売価格は350mlで150円程度。そのうち酒税は28円で税率としてはもっとも低い部類に入る。チューハイの増税で、庶民の楽しみが奪われようとしているのだ。
今回、チューハイ増税案が浮上したのは、ビール系飲料の税率を一本化する計画の影響だ。現在350ml缶だと、「ビール」の酒税は77円、「発泡酒」は46.98円、「第3のビール」が28円となっている。これらをすべて55円程度に一本化しようという計画があり、実現するとチューハイだけが異常に税率が低い状態となってしまう。この状況は、市場としては少々不自然であり、ある程度の均衡を図るため、チューハイも同様に増税しようということなのだ。
チューハイやビールの増税については、アルコール依存症患者の増加や未成年の飲酒を防ぐためだという側面があるとされている。つまり、お酒が安すぎるから無軌道に飲酒してしまう人がいる、という論理と捉えられるわけだが、果たしてそうなのだろうか? 政府はそれを口実に増税しただけではないのだろうか?
そこで、実際にアルコール依存症になった人の例を見てみよう。アルコール依存症だった漫画家・まんしゅうきつこは著書『アル中ワンダーランド』(扶桑社)で、自身の“アル中体験”を描いている。
12年に漫画ブログを解説したまんしゅうは、毎日のブログのネタを考えるのに苦労していたという。そんななか「私の本来の生真面目さがジャマをしている」と考えたまんしゅうは、軽い気分転換のつもりで酒に手を出してしまう。少量では酔えないと、大量に酒を飲んだ結果、酔いつぶれて記憶をなくしてしまうのだが、翌朝、目が覚めると、家事をしっかりこなしたうえに、ブログのネタまでメモっていたというのだ。記憶はまったくないが、やるべきことをすべて達成していた全能感に包まれたまんしゅうは、「お酒を飲めば今を乗り越えられる」と確信し、そのままアルコール依存症へと突き進んで行く。
「人と会話するとき、『面白い話しなきゃ!』という強迫観念にとらわれます。ブログ始めてからさらに、そのプレッシャーは自分の中で肥大していったのです。仕事の打ち合わせがあれば、その前に一杯ひっかけるのは当たり前」(同書より)
一概に言えることではないが、まんしゅうきつこの場合、ブログや家事といった目的を遂行するため、そしてコミュニケーションに対する不安から逃げるために酒の力を借りたのだ。つまり、酒が好きで溺れたわけではないし、酒がリーズナブルだったから依存症になったわけではない。