『クロ現』のやらせ問題を伝える週刊誌記事などでは、この問題で籾井会長も「無傷ではすまされない」などと書いているが、筆者は実は他ならぬ籾井氏自身が、ほくそえんでいるのではないかと想像している。籾井氏も、これまで特に原発問題での局内の調査報道を苦々しく感じていたからである。籾井氏が調査報道に慎重になり、むしろ「局内のコンプライアンス」を徹底させる方向で報道番組の制作現場に手を突っ込んでくる可能性は高い。
NHKの「やらせ問題」を奇貨としたのは安倍自民党という構図が見える。
■テレビ朝日へは「政権批判」報道への威嚇
もう一つ、政府・自民党が問題視し、局幹部を自民党・情報通信戦略調査会に呼び出すことにしたのは、テレビ朝日だ。問いただす番組は『報道ステーション』で、3月27日のコメンテーター古賀茂明氏(元経産官僚)の爆弾コメントについてである。この夜の出演がレギュラーコメンテーターとしては最後の出演になった古賀氏は、「菅官房長官ら官邸からバッシングを受けている」「テレビ朝日会長や古舘プロジェクトの会長の意向で今日が最後」「番組プロデューサーも更迭された」などと制作サイドや古舘伊知郎キャスターが想定していなかった発言を繰り返し、「I am not ABE」という手作りフリップを掲げるなど、政権批判も展開した。
確かにこれは不体裁な放送であった。ニュース番組の中で、直接、ニュースとは関係ない話を展開したのは「電波ジャック」と批判されても仕方ない。だが、ことあるごとに首相官邸の幹部たちが『報道ステーション』の放送について、特に、古賀氏の発言などについて目くじらを立てていたのは事実であるし、筆者も官邸に詰めている記者から、官邸幹部が『報道ステーション』など特定の報道番組について不満を述べることは頻繁にあった、と聞いている。こうしたことを古賀氏は「バッシング」と表現したのだろう。
これに対して、官邸の責任者である菅官房長官は、記者会見で「全く事実無根であって、言論の自由、表現の自由は、これは極めて大事だという風に思っていますけれども、事実に全く反するコメントをですね、まさに公共の電波を使った行動として、極めて不適切だというふうに思っています」と述べた。
さらに今後の対応に関して質問されて次の通り述べた。
「放送法という法律がありますので、まず、テレビ局がどのような対応をされるかということを、しばらく見守っていきたい」
菅氏は第一次安倍政権当時の総務相。放送局を監督する総務省のトップとして、行政が放送局の放送内容をより強く行政指導できるようにする放送法改正を目論んだが、この時は果たせなかった。
この人が「放送法」に言及する時は、放送局の報道・制作姿勢への介入を意識した時である。
古賀氏の不規則発言騒動の後で、自民党がテレビ朝日に対して、個別の報道について批判する文書を送っていたことが判明した。昨年11月24日に放送された『報道ステーション』でのアベノミクスをめぐる報道が、「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく、特定の富裕層のライフスタイルを強調して紹介する内容」だったと問題視し、「意見が対立している問題は、できるだけ多くの角度から論点を明らかにしなければならないとされている放送法4条4号の規定に照らし、特殊な事例をいたずらに強調した編集及び解説は十分な意を尽くしているとは言えない」と「公平中立な番組作成に取り組むよう、特段の配慮を」求めた。この番組の中身を見てみると、実は『報ステ』側も相当に配慮したのか、アベノミクスで効果があったとする人々の声ばかり紹介している。他方で、スタジオで朝日新聞の恵村順一郎論説委員が「一部の富裕層に恩恵は及んでいるが中小企業の中所得層、低所得層は恩恵を受けていない」とコメントした。自民党が問題視しているのはこの恵村氏のコメントが中心であるかのようだ。