身勝手な理屈だが、しかし、著者はそこに爽快感すら感じたという。高齢者が狙われるのは彼らが弱者だからではない。自分の子どもや孫には“水”を与えるが、その他の若者には決して与えない。渇ききった若者たちが血走った眼で高齢者を狙うのは必然かもしれない、と。
「(振り込め詐欺は)圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃なのだ」
若者たちを詐欺という犯罪に追い込んだのは、高齢者層が既得権益を手放さない、この社会である。だからこそ、老人喰いは今後も新たな人材が取り込まれ、手口と組織を変えて決してなくなることはないだろうと著者は指摘するのだ。
「本来、富める高齢者がやっておくべきだったのは、自らの子供や孫に教育費や労力を費やすことのみならず、将来的に自らの世代を支えてくれる『若い世代全体』に金と手間をかけて育て、支えてくれるだけの環境と活力と希望を与えることだった。だが現実は、まったく逆だ」
振り込め詐欺をめぐる異色としかいいようのない分析。しかし、それは本質を突いている部分もある。二極化、高齢者と若年層、貧困層と富裕層の対立、そしてそこから生まれる犯罪。日本社会は完全に新しい局面に入ったといえるだろう。
(林グンマ)
最終更新:2017.12.19 10:25