『老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体』(筑摩新書)
高齢者を狙った振り込め詐欺などの特殊詐欺犯罪が後を絶たない。警察庁の統計では、2014年の被害額は過去最悪の559億4000万円! しかもその被害者の実に8割が60歳以上の高齢者だ。様々な啓蒙、防止活動にもかかわらず、その手口は年々多様化し、当局の間でイタチごっこになっている。
どうして振り込め詐欺はなくならないのか。ルポライター・鈴木大介氏の新刊『老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体』(筑摩書房)は、そんな詐欺犯罪を犯す若者の実態を描いたものだが、しかし本書は「防犯知識」を啓蒙するものではない。むしろ、高齢者に対してこんな挑戦的な問いを投げかけかけられる。
「彼ら犯罪者があなたたち高齢者を狙うようになった原因が、あなたたち自身にあると考えたことはありますか?」
一体どういうことなのか。そこには詐欺に手を染める現代社会が抱える背景が存在した。
現在の特殊詐欺は高度に組織化され合理化されているという。地味なスーツに革靴、短い黒髪。多くのサラリーマンが出社する時刻にテナントビルに出社する若者たち。だが実は、彼らこそ振り込め詐欺を行っている若者たちだ。
「その集団は、極めて純粋に、ただ『摘発を受けない』という一点を目標として、統制されていた」
駅から事務所に向かう際も挨拶しない、お互い連絡先はおろか本名も教えない。私生活でも女やクスリ、酒等に関し様々な制約がある。私生活から犯罪に関わっている疑いを排除させるためだ。
彼らは「騙しやすい」高齢者の名簿を持ち、さらに高齢者の家族構成、居住形態(持ち家か賃貸か)、経済状態などの詳細を“下見”した上でターゲットを狙う。かつては「俺、俺」と電話したが、いまでは息子の名前を調べているので実名であったりもする。手口も巧妙だ。しかも息子の住所も会社も所属部署も孫の名前も学校まで知っていると臭わせる。すると被害者は「もしかしたら詐欺かもしれない、いや詐欺だ」と確信していても金を出してしまうのだ。
「もしここで詐欺だと断定して電話を切ってしまったら、万が一詐欺でなかった場合に息子の社会的生命は奪われる。かといって、詐欺を疑って警察に電話して、もしこれが詐欺でなかったとしたら、示談どころか息子の立場はさらに追いつめられてしまう」
例えば最近、学校の教師やその家族に「お前のために教え子が心を病んだ。復讐されたくなかったら金を送金しろ」などといった手紙が大量送付されたことがあったが、これなど代表的事例だろう。その手口は刻一刻と進化・変化をとげており、ここで書く意味は持たないほどだ。