『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』(文春新書)
1983年に任天堂から「ファミリーコンピュータ」が発売されて以降、日本における家庭用ゲーム機のシェアは拡大を続け、1兆円産業とも言われる時期が続いた。2007年以降、出荷額は減少しつづけているが、その一方でスマートフォンが台頭し、ソーシャルゲーム、スマホアプリなどが取って代わろうとしている。電車に乗って周りを見回せば、スマホを持ち、アプリに熱中する大人たちがそこかしこに見受けられる。コンソールからスマホへとプラットフォームの変化はあれど、我々日本人にとってゲームは非常に身近な娯楽である。
そんなゲームについて、脳に及ぼす悪影響が叫ばれ始めたのは02年。この年に刊行された『ゲーム脳の恐怖』(日本放送出版協会刊、現・NHK出版)で作者の森昭雄は、電子機器が人の脳に及ぼす悪影響を見出したと記し、以降、“ゲーム脳”なる言葉も一般的となったが、その信憑性については諸説あり、エセ科学であり脳波の計測方法にも問題があったなど言われている。主に家庭用ゲーム機やハイエンドPCの、美麗なCGによる暴力的な要素を含むゲームも、議論の対象となることが多く、こうしたゲームが悪影響を与えるという説もあれば、昨年9月には東京大学大学院の玉宮義之特任研究員、開一夫教授らが、暴力的ゲームがプレイヤーの行動に与える影響は短時間であると「Psychology」誌オンライン版に発表するなど、特定のジャンルにおける影響についても相反する意見がぶつかり合っている状況だ。
ところが、昨年12月に出版された『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』(岡田尊司/文春新書)によれば、インターネットやインターネットゲームに依存している若者の脳にはやはり変化があるのだという。12年にある研究チームがMRIを応用して神経繊維の走行を調べることの出来るDTIという方法で脳の画像解析を行ったところ、その結果として「インターネット依存の被験者では、健常者照群に比べて、大脳皮質で神経ネットワーク統合性の低下が認められた」のだという。そしてこのような状態が「コカインや大麻、覚せい剤、ヘロインなどの麻薬中毒の患者で認められることが報告されており、この論文の筆者らは、インターネット依存の若者の脳では、麻薬中毒患者の脳に起きている事が起きていると、強く警鐘を鳴らした」という。作者は京都少年医療院で、少年の更生医療に関わったのち、岡田クリニックを開業した、精神科医である。
その翌年である13年には、中国・安徽医科大学付属病院の研究チームが、インターネットゲーム依存のグループと、健常群のグループで脳の比較を行ったところ「インターネットゲーム依存群では、右眼窩前頭皮質、両側の島皮質で灰淡白の顕著な萎縮が認められ、その程度は、依存の強さと相関していた」ほか「外包とよばれる神経繊維の集まった領域で、神経繊維の統合性の低下が強まって」いたことも分かる。