生活保護だけではない。児童福祉手当の申請でさえ、収入や住居、彼氏の存在をしつこく聞かれ、もし違反したという通報などがあれば返納です、と脅しとも思える言葉を投げかけられたという。
さらに国や行政はシングルマザーの貧困を改善するどころか、後押しするようなことさえ行っていると著者は指摘する。
「『女手ひとつで、福祉の力も借りずに立派に子どもを育て上げる』という、ワケのわからない「立派な母子家庭幻想」が、なぜか日本の風土に定着してしまていること。これは実は、意図的な情報の結果かもしれない。というのも、09年に議論のテーブルに上がった生活保護の母子加算問題を含め、こうした母子家庭の福祉を削減する前に、あるいは守ろうとする議論が盛り上がると、必ず国会やメディアで対抗勢力としての『母子家庭の生活保護不正受給問題』が台頭してくるのだ」
こうして著者は「誰ひとりとして救うことも、状況を改善することもできなかった」という。
憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限の生活」を保障せず、弱者に対してあまりに無理解、いや攻撃的でさえある政府と自治体、そして日本社会──。政府はアベノミクスや女性の活用などを叫ぶ前に、こうした貧困やシングルマザーの実態を調査し、その対策をとるのが先決ではないか。そして私たち国民も自らの差別感情を自覚し、考え方を変えなくてはこうした問題は解決しないだろう。自分たちも簡単に“弱者”に転落する、そんな時代だからこそ、だ。
(伊勢崎馨)
最終更新:2018.10.18 03:14