「会ってみたら自分のタイプとはほど遠い、神経質そうで体臭のきつい男だったが、それでも人と話せるのが嬉しく、軽く酒を飲んで言われるがままにラブホテルに向かった」
早く仕事に戻りたい。しかし時には30時間も寝てしまうことから看護師は難しい。しかし他の仕事は経験もない。病気のためか買い物でお金を払うことさえ困難な状況だという。そんな彼女だが、なによりも大切なのは娘の存在だ。
「彩(娘)だけが救い。死にたくて死にたくて、でも彩がいるから死ねない」
著者はこうした惨状を聞き、こう思う。
「一人娘を抱え、病床の母も抱えて2年。仕事ができないならば生活保護は? うつ病の診断を受けているのだから障害者手帳の取得や障害者年金の申請なども、生活を少しでも楽にできる手段だろう」
しかし、中井さんは生活保護を申請していなかった。いや、中井さんに限らず、取材対象のほとんどが生活保護を受けていなかったという。
そして著者は踏み込むことになる。取材者からその先に。そう、彼女たちが生活保護を受給できるように動いたのだ。
著者はまず、23歳のシングルマザーに生活保護申請を行うよう説得した。彼女は複雑な家庭環境で祖父に育てられ17歳のとき婚外子として息子を出産した。うつ病と統合失調症でパニックになることも多い。子どもの前で首吊り自殺未遂をしたことさえあったという。
しかし──。彼女は申請予定日、待ち合わせに3時間も遅れた上、必要な書類も持ってこなかった。その理由として切々と訴えたのが生活保護や精神病に対する差別だったという。
「やっぱ無理だって。生活保護受けたら、やっぱり周囲の目だってあるし。(略)出会い系でどうのこうのとか話すとか、絶対無理だし、言うぐらいなら死ぬ。この辺、本当に田舎だから」
だがそれ以上に彼女が気にしたのは子供のことだった。
「子どもは残酷だから、どんなことでもイジメの原因になるでしょ。(略)前にこんな話があった。節約しようとしてリサイクルショップで子どものかばんを買ったお母さんがいたのね。でもそれが同級生のお兄ちゃんが売ったかばんで、それが理由でイジメを受けるようになっちゃった。そのぐらい狭い町だから、私は精神科に通っているのがわかるだけで、それで息子がなにか言われるかもしれない。実際、うつがひどくて辞めた以前のパートでは、私自身が『若いのにサボることばかり考えてる』って散々いじめられたし。田舎ってそういうところなんだよ」