運転手同士の競争も激しいが、当然タクシー会社同士の競争も激しい。そんななか大阪で生まれたのが、初乗り500円のワンコインタクシー。ワンメーターの距離を乗るのであれば、安い方が客にとってはうれしいが、実はこれ、企業努力によって成立しているものではなく、ここでも運転手の負担が伴っているのだ。前述の『東京タクシー運転手』によると、賃金システムに「リース制」を採用することで、格安運賃を実現しているのだという。
「リース制」とは、運転手が月に20万円とか25万円とか一定の金額を会社に納め車両を借り受けるというシステム。会社によって違いはあるが、ガソリン代、タイヤ代、故障時の修理費、さらには料金表示のステッカー代まで、一切合切を運転手が負担するケースも多いという。
つまり、燃料費が高騰しようとも、売り上げが落ち込もうとも、運転手からのリース代が入ってくるタクシー会社には毎月一定の金額が入ってくるわけで、それほど大きな痛手ではない。だからこそ、ワンコインタクシーなどという暴挙とも言える格安の料金が実現できたのである。
給料は安いのに会社からはリスクを負わされるという、とにかく厳しいタクシー運転手。誰もがやりたがらない仕事だろうと思いきや、実はそうではなく、タクシー運転手は“買い手市場”なのだという。実際、矢貫氏も、複数の有名どころのタクシー会社から不採用となっている。
その理由は簡単だ。タクシー運転手が求職者の受け皿となっているのだ。
前出『東京のタクシー運転手』のなかで、広報誌『東京のタクシー2014』から「タクシー乗務員数の推移」を抜粋しているが、それによると「サブプライムローン問題が起こった2007年(平成19年)に7万4000人に達し、翌年にリーマンショックが起こるや運転手の数はさらに増え7万5000を突破して過去最高の人数となっていた」とのこと。やはり景気が悪くなるほど、タクシー運転手が増えることがわかる。ピークを過ぎた現在でもタクシー運転手の数は7万人を超えており、まだまだ“買い手市場”であることは間違いなさそうだ。
不況になると運転手が増えるのに、乗客は減ってしまうという、悪循環以外の何ものでもないタクシー業界。アベノミクスとやらが本当に功を奏してくれたら、はたして世のタクシー運転手の皆さんは笑って過ごせるようになるのだろうか。
(田中ヒロナ)
最終更新:2017.12.09 04:40