ところが、NHKはこのコメントから「無農薬有機農業を広める」というくだりと「日本が再び戦争しないよう声を上げる」というくだりを丸々カットし、以下のように縮めて放映したのだ。
〈「落花は枝に還らず」と申しますが、小さな種を蒔いて去りました。今も、生者とともにあって、これらを願い続けているだろうと思います。〉
これでは、どんな種を蒔き、何を願ったのか、まったくわからない。いやそれどころか、「これら」が「落花は枝に還らず」という言葉をさしているように解釈されてしまう。少し前、川内原発再稼働の報道をめぐって、原子力規制委員会の田中正一委員長の発言を編集した『報道ステーション』がBPOの審議対象になったが、もし、あれがBPO入りするなら、このNHKの菅原夫人コメント編集も明らかにBPOの対象だろう。
いったいなぜこういうことが起きてしまったのか。
「例の自民党からの通達の影響です。公示期間中なので、選挙の争点に関わるような政治的な主張を取り上げると、後で何を言われるかわからないと、各局、びびってしまったんでしょう。ただ、日テレの場合はそれを利用した感じもしますね。読売はグループをあげて、安倍首相を応援していますから、通達を大義名分にして、自民党に不利になるような報道をやめさせたということでしょう」(民放関係者)
しかも、この自主規制は翌日のワイドショーをみると、さらにひどいことになっていた。日本テレビ系の『スッキリ!!』や『情報ライブ ミヤネ屋!』が一切触れないのは予想していたが、TBS系の『ひるおび!』でも映画俳優としての足跡のみを特集し、政治活動については全く報道しなかったのだ。
「前日の夜に『NEWS23』と『報ステ』が『菅原文太の死を政治利用している』『反戦プロパガンダだ』と大炎上したんです。抗議も殺到したらしい。それでTBSはビビったのかもしれません」(前出・民放関係者)
驚いたことに、テレビの世界では「護憲」「反戦」がタブーになっているらしい。いっておくが現時点では日本国憲法が日本の最高法規であり、戦争に反対するというのは大多数の国民の願いでもある。ところが、それを軽視することがタブーになるならまだしも、逆に尊重することがタブーになってしまっているのである。
おそらく、こうした状況に一番、無念な思いをしているのは当の菅原だろう。強いものにすり寄ることしかしないこの国のヘタレマスコミによって、命をすり減らしながら叫んだ言葉が葬り去られてしまったのだから。