画像は「産経新聞社公式HP」より
9月26日深夜から放映された『朝まで生テレビ!』(テレ朝系)は、「“慰安婦問題”とメディアの責任」がテーマだった。しかし、案の定、朝日新聞が悪い、朝日新聞が日本を貶めたという議論ばかりで、慰安婦問題の本質や右派メディアによる問題のスリカエに話が及ぶことは皆無。とくにひどかったのが、元産経新聞ニューヨーク支局長で安倍首相のオトモダチの山際澄夫だ。「朝日が歴史を歪めた」「性奴隷なんてなかった」、さらには「慰安婦問題は福島瑞穂の自作自演だ」なんていう意味不明な主張までがなりたて、異論をさしはさもうものなら、怒号を浴びせて、相手にしゃべらせない。こういう人物を見ていると、産経的右派ジャーナリズムのレベルの低さがよくわかるが、実はこの日の番組中、そのうるさい山際がなぜか黙り込んでしまった時間があった。
それは、「朝日が問題なのは特定の意図をもって報道していることだ」という山際らの主張に対して、ジャーナリストの青木理が「朝日だけじゃない。産経だってレフチェンコ事件で同じことをやっている。産経だって、編集局長がKGBのスパイだということをつきつけられたら、あっという間に知らんぷりしちゃったわけでしょう」と反論した時のことだ。山際はそれまでの勢いが嘘のように、言葉を失ってしまったのである。
結局、議論はすぐに別のテーマに移り、話はそれで終わってしまったが、青木がもちだした「レフチェンコ事件」とはいったいなんなのか。「KGBのスパイ」とはどういうことか。実はこの事件は、産経出身の山際が沈黙するのも当然で、産経新聞にとっては絶対に触れられたくない「過去」なのである。
「【私も直接渡した】旧ソ連→社党へ資金流入 元KGB少佐・レフチェンコ氏語る」
1993年3月19日、産経新聞が一面にこんな大見出しの記事を掲載した。旧ソ連の諜報機関・KGBのエージェントだったスタニスラフ・レフチェンコは1975年から79年の間、日本に在住して対日スパイとして活動していた人物。1979年にアメリカに政治亡命し、その少し後に、米下院情報特別委員会や複数のメディア、単行本などでKGBの実態と日本でのスパイ活動の詳細を暴露していた。
産経はそのレフチェンコを約10年ぶりに引っぱりだし、社会党にソ連の資金が流れていたこと、そして本人も社会党関係者に現金を手渡していたことを証言させたのである。
「七〇年代にソ連の共産党やKGBから社会党にさまざまな形で資金が流れていたことは疑いのない事実で、私自身もその資金の受け渡しに、直接、かかわっていた」
「七五年から七六年にかけ、社会党東京都本部の幹部を協力者として取り込むために接近し、二回にわたり、同幹部の発行するニュースレターの経費と選挙資金のためという名目で合計約三百万円を手渡した」
当時、佐川急便事件で自民党の金権汚職が問題になっているさなかの報道で、この記事は国会での社会党の追及を鈍らせるカウンターとして大きな威力を発揮した。
もちろん、その動機がいかに政治的なものであっても、事実なら報道するのは当然だ。だが、産経はこの報道である事実を意図的に隠蔽していた。それは、自社、産経新聞の編集幹部が、社会党関係者と同様にレフチェンコの協力者に名前を連ねていたという事実だ。