そんな「生活安定層」の代表ともいえる少女・エミは「効率よく稼げる」という書き込みにつられてJKリフレを始めた。彼女はJKリフレで次々と事件が起きていることや補導される可能性があることはもちろん、補導とは何かすら知らなかったという。仁藤がやめ方や店長への言い訳をアドバイスしても「あと3日シフトを出しちゃってるんで、その出勤だけしたらやめます」と、変なところでもその真面目さを発揮してしまう。むしろ「生活安定層」の少女たちはルールに従順で、自分が危うい世界にいることにも気づいていないため、店側は扱いやすく、重宝されているというのだ。
別に貧乏ということではないのに「他のバイトより稼げる」という理由から深い考えもなくJK産業で働いていたり、友達の紹介で始め「普通のアルバイト」だと思い込んでいる少女も少なくない。仁藤がアンケートやインタビュー調査をしたところ、「『JK産業』以外のアルバイトをしたことはありますか」という質問に対し、31人中11人が「ない」と答えている。JK産業でしか働いたことがないという少女たちに危機感を持てと言っても、あまりピンとこないかもしれないし、同世代の女の子たちが同じようにたくさん働いていたら、「大丈夫だ」と思うのはある意味、仕方がないのかもしれない。
それに、JK産業が稼げるのは事実だ。JK産業のオプションには、あいあいがさ2000円、にらめっこ1000円、腕組み(18歳以上)5分1000円など、こと細かに決められたさまざまなものがある。さらに、こういった正規のサービスではなく、性的なことも含む「裏オプ」というものもある。本来は、店にバレた時点でクビになることもあるのだが、そんな裏オプをやっている子たちですら危機感は薄い。裏オプとして売春しているという16歳のリエは、同書の中でこう語っている。
「ニュースを見たときは『わっ』とは思うんですけど、まだ大丈夫かなみたいな。他のお店が摘発された事件をテレビで見たら『やばっ』とは思うんですけど、うちの店は大丈夫かなって思っちゃって」
店にバレてクビになることや他の女の子に「そういうことをする子なんだ」という目で見られることは極度に恐れているのに、客のことは一切恐れていない。周りで起きていることを自分と重ねられないのか、あるいは重ねたくなくて、違うと思い込もうとしているのか。普通のバイトではない、危ないことかもしれない、と思いながらもなかなかやめられず「うちのお店は関係ないから大丈夫」「お客さんは自分で選べるから大丈夫」と思っている子も大勢いるのだ。
しかし、ただ単に、女子高生の無知さや危機感のなさを責めるわけにはいかない。それを教えてこなかったのは、周りの大人たちでもある。なかには、親公認でお散歩をしているという子もいるが、彼らは子どもから「観光案内のバイト」「お客さんとご飯を食べる仕事だ」と言われ、それを信じてしまっているのだ。無知なのは、大人も同じだろう。