『首都水没』(文春新書)
8月20日未明に広島市を襲った記録的集中豪雨は、甚大な爪痕を残した。10カ所以上にもわたる土砂崩れや土石流が発生、近くの住宅街を襲い多くの家屋が流され、現在判明しているだけで死者39人、行方不明者7人というあまりに多くの人命が失われる結果となった。
こうした水害は、首都・東京も決して例外ではない。「東京は今回の広島のように山の近くに住宅地が密集しているわけではないから大丈夫」などと思っている人は多いかもしれない。しかし実は東京は日本の中でも特に危険な場所どころか「世界一危ない」都市なのだという。
「首都東京は必ず水没する」
こんな恐ろしい警鐘を鳴らす本が最近になって出版された。都庁で土木部長として河川事業や下水道処理に長年関わってきた専門家による『首都水没』(土屋信行/文春新書)である。この書によると、東京はまさに水害の危険に満ちあふれている。本書に記されている中央防災会議が発表したシュミレーション(2010年版)によると、一旦東京が洪水に襲われるとその被害は甚大なものとなるという。
「利根川が氾濫した場合、最悪のケースで530㎢(東京都の約4分の1の面積に相当)が浸水し、(略)死者数は約6300人を想定しています」
しかも水の深さは最大で5メートル以上に達する地域もあり、さらにそれに伴い都市機能も完全にマヒすると見られているのだ。
「電力設備の浸水による電力の停止、漏電による二次災害防止のため電力供給が停止されることに加え、個別のオフィスビルで等では受電設備が地下に設置されているケースが多いため、浸水に伴い、電力が使用できない期間が相当長期にわたる恐れもあるのです」
まさにパニック状態だが、さらなる恐怖が待ち受けている。それが地下鉄の存在だ。同じく防災会議で出された荒川の堤防が北区志茂値地先で決壊した場合を推定したシミュレーションが存在する。
「決壊してから11分後、氾濫した洪水は決壊個所から約700m離れた、東京メトロ南北線の赤羽岩渕駅に到達します」
大量の水は駅に設置された1メートルの板も乗り越え、一気に地下鉄線路まで到達、地下鉄トンネルに沿って激しい勢いで流れていく。さらに他の駅からも洪水が合流、1時間後には次駅の王子神谷駅に、3時間後には5キロ先の西ヶ原駅までほぼ水没する。さらに数時間後には銀座、霞ヶ関、赤坂、六本木駅にまで洪水は達するというのだ。